きみ

□スワンソング
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青空に目を伏せて僕は船に乗り込む。



「この景色、好きなんだ」

ふわり、笑った、君。
儚げな瞳。壊れそうなくらいの繊細さ。けれど僕は抱き締めたかった。

「鳥も飛んでくるから」

嬉しそうに両手を広げる。真っ白なシャツが風に乗って気持ち良さそうだ。そしてまた、君も。

「ねぇ聞いて?カヲルくん」
「どうしたんだい?」
「僕たちは、生きているんだ」
「うん」

言って、歩みを進めた。今の距離のままでは、抱き締めることも叶わないから。せめて触れていたい。

なおシンジくんは続ける。

「なんのため、とか。だれのため、とか。そんなの決められなくても生きているんだよね」

青に手を溶けさせて魚と戯れている。君にはとても、海が似合うね。
揺らぐ睫毛に高揚して、思わずもう一方の掌に触れた。

「手伝いは、要らない」
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