その他

□同盟魔女への祝魔法
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「さあさ目を閉じて御覧なさい」

白い手のひらよりも少し大きい箱を手にナナシは呪文を唱える。
対席する真里亞へと優しく語りかけるように、秘密を共有するように、囁く。
真里亞は瞳を閉じて、今から起こる魔法に胸を踊らせる。口端をあげて、頬を染めて。

「この箱の中に存るはきっと素敵な甘い現。............ほら真里亞、目を開けて中を見て?」

「うん!......わぁ!」

真里亞にそう促せば、瞼を開け輝いた瞳を見せる。
そして、真里亞の前に置かれた箱を緊張と期待の入り交じった面持ちでゆっくりと持ち上げればそこにはクリームがふんだんに盛られ、大きなプレッツェルが存在を強調するカップケーキが存在していた。
真ん中に乗ったチョコレートには"HappyBirthday 真里亞"とホワイトチョコペンで書かれている。
そう、今日は右代宮真里亞が生まれた記念すべき日だ。友人でもありマリアージュ・ソルシエールの同盟魔女でもあるナナシが祝いに駆けつけた。

「私の魔力じゃまだ小さな物しか生み出せないんだ。でも、大好きな真里亞が生まれた日だからどうしても祝いたくて」

「あのね、とっても嬉しいよ!ナナシ大好き!魔法はね、修行すればいつか絶対にベアトのような魔女になれるから一緒に頑張ろうね!うー!」

「うん、ありがとう。ベアトみたいな素敵な魔女になりたいな。...ほら真里亞、食べてみて?」

フォークを差し出せばそれを受け取り、一口食べる。
すると「うー!」と真里亞独特の口癖を言いながら頬を押さえた。蕩けそうな程に美味しいと表情が語っており、元々小さめなのもあってすぐに食べ終えてしまう。
数分で無くなったことに僅かに残念そうにしながらも、これ以上はないという風にとびきりの笑顔でナナシに礼を言った。

「ナナシありがとう!本当に、本当に美味しかった!」

「そっか、なんだか私も嬉しくなってきちゃったな。次はもっともっと大きなケーキを生み出せるように頑張るね」

「うー!真里亞もナナシと修行する!......あっ、ママが帰ってきた!」

「じゃあ私はそろそろ行かなきゃ。弱いから一人の反魔法の毒素でも消えちゃう」

開いた玄関の音はナナシが存在できるタイムリミットと同義。
見習い中の見習いであるナナシに真里亞の母である楼座の毒素は受け止めきれない。
あまり長く真里亞と居られなかったことは寂しいが、マリアージュ・ソルシエールの同盟ならば繋がっていられる、だからそこまで悲観的になることはない。
パン、と両手を軽く打てば、カップケーキやフォーク、箱はふわりと溶けて消える。そしてナナシの体も同じように空に溶け始めた。

「またねナナシ!」

「またね真里亞、近いうちに」

無邪気に手を振る真里亞にこちらも振り返し、トントンと階段を上がってくる音に意識を向ける。
今日は真里亞が悲しむことがありませんように。開かれた扉の音を最後にナナシは消えた。

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