カゲプロ

□目を奪った心を奪われた
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「モモちゃん...?」

「どうしたの?ナナシちゃん」

ナナシは幼なじみであるモモに異変を覚えた。
モモはいつも人から注目されることを悩んでいた。
しかし、メカクシ団という団体に入り、モモが注目されていた原因の目を奪う能力は制御できるようになり、やがて笑顔が増えていった。
普通の人が聞けば信じるはずのないそんな突飛な話も、ナナシは信じた。
親友のモモが言うのだ、それだけで信じるに値した。
モモは能力を無闇に使うのを嫌がっていた、しかし今はどういう訳かモモは目を奪うを使いナナシの目を奪っていた。
ここはモモの部屋、注目するのはナナシしかいなかった。

「目...暴走かなにか...?」

「ううん?私が自分の意思で使ってるよ?」

「どうして...?」

聞けば、モモはにっこりと笑った。
同性の自分から見ても愛らしいと思うその笑顔。
だけど今は何故笑うのか理解できず少しだけ恐怖心を煽られた。

「だって、こうすればナナシちゃんは私だけを見てくれるから」

「え...」

「ナナシちゃん、お兄ちゃんのこと好きでしょ?」

「...っ!」

いきなり好きな人を言い当てられて顔に熱が集まる。
俯こうとしたけれどモモから目を離せず、モモはそんな様子を見てやっぱりとでも言うように頷いた。
その通りだ、ナナシはモモの兄であるシンタローがずっと好きだった。
モモの幼なじみである以上、シンタローとも昔からの交友があった。
面倒くさがりながらも勉強を教えてくれる優しさが、時折不器用に笑う笑顔が、シンタローと関わっていくにつれどんどんと彼に惹かれていくのが自分でもわかった。
ナナシはシンタローに恋をした。

「私ね、ナナシちゃんがお兄ちゃんを好きになるずっとずっと前から##nane1##ちゃんが好きだったんだ」

モモは寂しそうに微笑んだ。

「女の子同士で変だよね...。でも、本当に好きだったの。だってナナシちゃんが初めて家族以外で本当の私を見てくれていたから。目を奪うを持つ前から、アイドルになる前から、ずっとお兄ちゃんの影に隠れてた私を見てくれていたのはナナシちゃんだけだったから」

ナナシはモモの告白に、何も言えなかった。
親友が自分に恋愛感情を持ってた、今まで一緒にいて気づきもしなかった。

「でも、ナナシちゃんはお兄ちゃんを好きになっていて、私はこの恋を諦めようと思った。でもどうしても無理だった。誰か他の人を好きになろろうとしても頭に浮かんでくるのはナナシちゃんだけだったんだもん」

「モモ、ちゃん......」

「好きなの、男の子に生まれればナナシちゃんはお兄ちゃんよりも私を好きになってくれた?...そんなことを考えたってどうしようもないのはわかってる、わかってるけど...!!」

泣きそうな顔でモモはナナシに歩みより、抱き締めた。
モモの柔らかな体から熱が伝わる、振り払う気にはなれず、大人しくモモの腕の中に収まった。

「好きなの...!恋にも馬鹿になれたらこんなに苦しまなくてすんだ?お願い、お兄ちゃんより私を見て!お兄ちゃんより私を選んで!ナナシちゃん!」

感情を全て撒き散らすようにモモは叫んだ。
彼女の流した涙が肩の布に染み込む。
こんなに思ってもらっているのに、ナナシはモモの気持ちに答えられないことを悔やんだ。

「......モモちゃんごめん、私はやっぱりシンタロー君のことが好きだよ...」

その言葉を聞き、本格的にモモは泣き始めた。
嗚咽が響き、ナナシをさらに力強く抱き締める。
モモの気持ちには答えられない、だからせめてこれぐらいはモモの好きにさせてあげたかった。
何十分かそうして、少しずつ落ち着いてきた頃、モモが呟いた。

「.........なら」

「え...?」

「...なら、私のことを見させる」

モモは離れ、両手でナナシの肩を掴み目を覗きこむ。
モモの両目は不気味なほど赤く染まっていて、光が見えなかった。
ただならぬ気配に背筋に悪寒が走り、反射的にモモを突き飛ばしてしまうも視線を外すことはできなかった。
モモは突き飛ばされたまま幽鬼のように佇む、髪に隠れて表情は見えなくなっていた。

「ナナシちゃんが見てくれないなら、私から見させるしか、ないじゃん...。初めて目を奪うに感謝するね、これのおかげでもうナナシちゃんはお兄ちゃんを見ない、私だけを見てくれるんだから」

ゆらりと顔を上げたモモは、泣きながら笑っていた。
苦しそうに、でも幸せそうに。
モモが近寄ってくるも足は縫いつけられたように動かなくて、視線を外すこともできなくて、体が震えた。

「モモちゃん...、怖いよ...」

「私は怖くないよ?大丈夫、大丈夫だから何も考えずに私だけを見てて、ね?」

するりと頬をなぞったモモの手。
そして光の消え去った赤い瞳に絶望した。

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