ソシャゲ系

□罪なのはどちらか?
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「君は罪人だ」

「アイス、ブランド...」

剣の切っ先を突きつけられながら、必死に言葉を紡ぐ。
目の前の彼、アイスブランドは冷たく見下ろした。
先が首に少しだけ触れる、少しでも力を加えればいともたやすく命は奪われるだろう。

「...」

「君は罪人、僕の想いに答えてくれなかった、それが罪」

ナナシはその言葉に言い返せなかった。
彼、アイスブランドとは本当に昔、それこそアイスブランドが下級悪魔だったころに出会った。
始まりは彼が戦闘の末に手袋を失い寒さに凍えていたのをナナシが手を握って温めたのだ。
手袋よりも人肌の方が温かく、ナナシの熱が伝わると同時に心の内から別の熱が沸き起こった。
それを恋だと自覚するのは早く、後も交流を数回重ね、そして想いを伝えた。
しかし返事はされないままナナシは行方を眩ました。
ある日ナナシの住んでいた街がモンスターに襲われて、その結果急遽別の街へと移り住んだのだが、その事情を知らぬアイスブランドは裏切られたと思ったのだ。
断るなりなんなりしてくれれば諦めはついたのに、それすらもしてくれなかったナナシへの愛はやがて憎しみが入り交じった。
それからはずっと探し続け、こうして氷刑者となった今でも胸の内を焦がす黒い炎に焚き付けられるように捜索し、そしてこの日、漸く見つけた。
夜で人通りの少ない道だったので、直ぐ様襲いかかった。
...不意討ちで十分殺せたがそうしなかったのはどこかで真相を聞きたいと思っていたからか。

「罪人は殺さなければいけない、僕は氷刑者だから。...ナナシ。僕の心を奪ってそのままにした君の罪は重い」

「......ごめんね」

抵抗されるとばかり思っていたナナシは静かに涙を流しアイスブランドを見つめた。
それが無性に腹立たしく、少し首の皮を切った。
さっさと殺してしまえばこの苦しみから解放されると思っていたのに、いざ目の前にしてみれば殺したいのに中々殺せなかった。
痛みに顔を歪めるナナシを見て剣を退きそうになったほどだ。

「弁解はしないの?罪を認めるの?」

「うん。...こんなに傷付けちゃったんだね。本当にごめんなさい」

「ナナシ...僕が聞きたい言葉は...」

聞きたい言葉は?その先が出てこなかった。
今になって何を迷うのか、あれほど憎んだ相手が目の前にいるのだからその剣で首を撥ね飛ばせばいい。
思考がぐちゃぐちゃになり、空いている手で頭を押さえる。
もう自分がどうすればいいのか彼にはわからなくなっていた。
殺したくない、殺したい、愛しい、憎い、様々な思いが交互に入り乱れてどれが本当の感情か判別するのは不可能だった。
やがて殺せばそんな思いはしなくなるんだ、その言葉が脳を支配した瞬間理解するより前に剣はナナシを切りつけていた。

「!?ナナシ、ナナシ!」

「......好き、だった...よ。言えなくて...ごめ.........」

剣を放り出し抱き抱えて揺さぶれば、その言葉を最後にナナシは息を止めた。
手袋越しからでも彼女の体温が急速に落ちていくのがわかって、そこで取り返しのつかないことをしたと気づいた。
好きだった、いや、今も好きなナナシの温度が消えていく、どんなに叫んでもどんなに願ってもあの優しい暖かさはもう戻らない。
そしてそうしたのは自分だった、気が動転し一時の感情で殺してしまった。
アイスブランドが本当に聞きたかった言葉を聞いたのは彼女を斬りつけてからだった。

「っ......やっぱり...、ナナシは罪人だ............。もう裁けないじゃないか.....」

本当はナナシに罪が無いなんてわかってた、しかしナナシの罪にしなければどうにかしてしまいそうだった。
心にぽっかりと穴が空いたようだった、ただナナシを抱き締めてその場から動けなかった。
本当に、本当に、罪なのは――――

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