魔界王子

□甘い誘惑
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遅い。

いつまで経ってもダンタリオンが帰って来る事はなく。点呼の時間を過ぎてしまった。監督生の俺の名前がな……。そんな事を考えながら部屋に戻った。
全く。総代が知り合いで良かったよ。そうじゃ無ければ、何と言い訳をすればいいのやら。俺が代わりに言ってやった事に感謝して欲しいな。

一息ついて、寝ようと思った時だ。突然部屋が光った。何かと思ったら、あの執事がこちらに来ただけだった。
「ウイリアム様」
「お前……。構わず出て来るようになったな」
「貴方が私のシジルに触れられたから、こちらとの扉が開き、来られたのですよ」
いつの間に俺はこいつのシジルに触っていたんだが……。と思ってふと手の方を見たら、確かに触れていた。そうか。この本を読む予定だったな。
「それで?どうしたんだ?」
「ダンタリオン様がお呼びです」
「あいつ……。点呼には来ない癖に、俺を呼び出すとは……」
丁度良い。文句を言ってやろうと思った。俺は寝巻からいつもの格好に着替え、魔界へと向かった。


こう思うと、魔界に行くのにも随分慣れたな。まぁ、最近はしょっちゅう行っているしな。………ケヴィンが知ったら大変な事態になりそうだな。

ダンタリオンの家に着いて。俺はダンタリオンの部屋まで案内された。
「失礼します」
「!ウイリアム」
俺を見るなり、ダンタリオンは俺に走り寄って、抱き着いて来た。
「っ!抱き着くな!」
「すまない……」
だが離さないこいつ。全く……。
「………はぁ。何故点呼の時に来なかった?」
「仕事が急遽出来たんだ」
「仕事?」
「ああ。俺が留守なのを良い事に、他の悪魔がな………」
ああ。それでその退治か。ならば仕方ないのか……。
「うん?バフォメットだっているだろう?」
「私もその時居なかったので………。アモンとマモンにこの城の見張りをさせていたのですが………」
なるほど。そう言う事か。
「もう戻れるんだろう?それならとっとと戻れ」
「お前は相変わらず冷たいな………」
「当然だ」
俺は抱き着いているダンタリオンを強引に離した。
「………なぁ、少し、お茶でもしないか?」
「?別に良いが………」
そう言うとダンタリオンはバフォメットにお茶を持って来させるよう、言っていた。
「疲れたのか?」
「まさか。下級悪魔相手に疲れなど」
「そうだよな」
なら何故そんな顔をするんだ。俺には分からない。
俺は座りたいと言った。そうしたらこのソファーに座って良いと言われた。随分ふかふかだな。
「………ここの所、下級悪魔の動きが読めなくてな」
「そうなのか?」
「ああ。俺が居る時に襲撃して来るやつも居れば、人間界に居る時に襲撃して来るやつも居る」
「………」
魔界の不安な動き。それはつまり、俺にも降りかかる。だから気にはかけているんだが、まさか俺が知らない所でそんな事が起きているとは………。
「だからウイリアム。気を付けろ。俺達のシジルをいつでも持っていろ」
「………そうだな。何かあってからでは遅いしな」
本当はダンタリオンのは持ちたくないんだが、この際贅沢は言ってられない。俺は死にたくないしな。
「ダンタリオン様、紅茶をお持ちしました」
「ああ、ありがとう」
バフォメットによって運ばれて来たその紅茶は、とても良い匂いがした。
「これはな、俺のお気に入りなんだ」
「ふーん………」
一口飲んでみる。あ、甘い。砂糖でも入れたのか?俺がそう聞いてみると、何も入れていないとバフォメットは言った。
「元から、そう言った味です」
「へぇー……」
こんな紅茶、あるんだな。とても飲みやすいし、疲れた身体には持って来いだな。……うん?やっぱりダンタリオンのやつ、疲れているんじゃないのか?俺はもう一度聞いてみた。
「疲れてるのなら、さっさと寝たらどうだ?」
「だから俺は疲れてなど……」
「だったらこのような紅茶を飲まないだろう」
「………」
黙り込むダンタリオン。何故そこまでして疲れていないと言いたいんだろう。
「ダンタリオン様はとても疲れていますよ」
「バフォメット!」
「ですからウイリアム様。ダンタリオン様をお願いします」
そう、言われるとな。何て言って良いかなんて分からない。俺が何かを言う前に、バフォメットはこの部屋から出て行ってしまった。
「………そこまでして意地を張りたいのか?」
「…………恥ずかしいだろ。大侯爵と言うものが、その程度で疲れたなど」
俺には良く分からんプライドだな。疲れた時は休めば良い。それは大切な事だ。仕方の無いやつだ。俺は立ち上がって、ダンタリオンに抱き着いた。
「っウイリアム!?」
「………これでお前が癒されるんなら、これぐらいやってやる」
ぎゅっと俺を抱き締めるダンタリオン。
「ウイリアム……。これ程の褒美はない………。ありがとう……」
ダンタリオンの匂い。気にもしなかったが、良い匂いがするんだな。………って俺は何を言っているんだ。けど、こんな時も良いかと思った俺も居た。
誰かに甘えると言う事。それはとても大切な事だろう。俺だって、甘える時はある。そうじゃないと、疲れはなかなか取れないからな。それにだ。ダンタリオンが倒れられては、誰が俺を守ると言うんだ。居なくては困る。
俺はその日、こいつの城に泊まる羽目になった。まぁ、朝の点呼までに戻れば良いか。















END

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