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□Let It Be
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色が見えることを
音が聞こえることを
貴方の顔に触れられることを
幸せだと思うべきだ



Let It Be



『テオせんせ』


この街では有名なお医者さん
優しいけど癖がある



「あぁ、なんだ」


『暇なら相手してよ?』


「俺は暇じゃない
金が欲しいなら他を当たれ」


『別に買って欲しくて先生に近づいてるわけじゃないわよ』


「ニナに悪影響だ、帰ってくれ」


『ニナちゃーん、クッキー焼いてきたわよ?
あ、でもテオ先生が帰れって言うからここに置いていくわね』


「ユニさん、いらっしゃってたんですねってもう帰られるんですか?」


「俺は知らんぞ、好きにしろ」


私がこの病院に通っているのは、テオ先生に惚れているとかそんなことではない
確かに先生は寡黙な割に優しくて素敵なお医者さんだと思う


そう、お医者さんなのだ
医師



私には、子宮がない
正確には、子宮がなくなってしまった



1年ほど前に私は事故にあった
大きなお腹だった
もうすぐ生まれる、そんな幸せに満ちていたのに
車は突っ込んできた


子どもは流産で、母体に影響が及ばないように子宮は全摘出
旦那は、“子どもが産めない女は必要ない”と私を家から出した


この街で一文無しで家から追い出されたら女はどうやって生きていくか…

娼婦、この道しかなかった


娼館では大いに歓迎された、子宮がなければ妊娠することもない
稼ぐにはもってこいの人材だったのだ



でもそれから一年
私はテオ医院に通い続けている
まだ、痛むのだ心が








「いっつもありがとうございます!
ユニさんのクッキー大好きです」


『ニナちゃんが美味しそうに食べてくれるの見ると元気になれちゃうわ』


「美味しかったです!
ごゆっくりして行ってくださいね!」


『ありがとね』





そう言って小さな看護師さんは大きな洗濯かごをもって屋上へと続く階段を登って行った






『お医者さんが煙草なんて吸っていいの?』


「今は患者がいないからな」


『あら、失礼
ここにいるじゃない?』


「それはそうだったな
あんたはTABは飲んでないんだろ」


『先生に言われたとおり飲むフリは続けてるわよ』



「ならそろそろ仕事もやめ時だな
いずれその嘘もバレる」


『辞めたって行く場所がないわ』




子供も産めない、働きもしない、美しさだけを身にまとった女が生きていけるような街ではない


ここは、生きていけないものは見捨てられてしまうような街だ




「アシスタントが足りんのだ
ニナを見ただろ、小さい体でよく働く
大人以上に疲れるに決まってる」




それが先生の口説き文句だとしても、私は囁かな優しさを幸せだと感じた



『素直じゃないところが好き』


「娼婦特有の甘いセリフなどいらん」



『テオ医院の美人看護師になってあげるわ』



「お前はそうしていつでも明るくしていろ
俺にはお前が必要だからな」










好き、愛してる
そんな言葉一つだってもらったことはない

でもそれよりも重くて愛を感じる言葉

必要


貴方にとって必要な存在ならば私はいつでも明るくしている




『ニナ、今日は私に任せてゆっくり休んで。
便利屋さんのところにでも遊びに行っておいで?』


「で、でもテオ先生は…」


『テオ先生とは私が遊んであげるから大丈夫
いってらっしゃい』


「はい!」




ニナは嬉しそうにスカートの裾を風に踊らせて扉を開けて出て行った




「誰が俺の遊び相手だ?」


『満更でもないくせに
ここからは大人の時間でしょ?』









CLOSED








「あらぁ、今日はお休みかい?」


「そうみたいねぇ
新しい看護師さんが増えたみたいよ」


「そろそろテオ先生もお嫁さんが欲しい頃よねぇ」







Let It Be = なるがままに


And when the night is cloudy
There is still a light that shines on me
Shine on until tomorrow, let it be

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