スラムダンク
□君が好きだと叫びたい
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左腕のデジタルウォッチが、7:30を示した。
それをチラリと見やり、耳にしていたイヤホンを左側だけ外す。
右耳の少し忙しない洋楽のほかに、道路を走る車の廃棄音や、雑踏が聞こえ始める。
そして、
──リリリッ!
聞こえた自転車のベル、そしてすぐ……
──トンッ
「おはよう、流川君。」
いつものように叩かれた左肩。
そこには、明るい笑顔があった。
「ッス。」
「一緒に行ってもいい?」
「オウ。」
横顔を盗み見ると、ふと視線が絡んだ。それに気がつき、やんわりと笑顔が浮かぶ。
初めは、部活が一緒で、ただ登下校の道が重なったから、たまに登下校を共にした。
いつしかそれが当たり前になり、いつの間にか夢中になっていた。
何故か?
理由(わけ)なんて…無い。
マネージャー故に、予め練習メニューが伝えられているようで、今日の流れをあらかた聞けるのは最近ありがたいと思う。
「基礎練習の後に、スリーメンパス。それから、1on1と2on2その後、試合形式みたいだよ?」
「…基礎練に、体幹も入っているのか?」
「ン?うん。あれ?そういえば、流川君、体幹苦手だっけ?」
「……眠くなる。」
そう答えると、さも可笑しそうに笑い、そっと頭を撫でられる。
「オイ。」
「体幹も大切だよ?芯が確りしてなきゃ、すーぐ倒されちゃうんだから‼」
そう言って、ツンツンと脇腹辺りを指でつついてくる。
くすぐったい…。
「ヤメロ。」
「あ、脇腹弱い感じ?流川君でもくすぐったいんだ〜。いいこと知ったな〜。」
少し意地の悪い顔をしている。
「覚えとけよ…」
「ン?…………これは不味かったかな…………。」
そう言うと、自転車のハンドルを握り直し、ペダルを思いっきり踏み込んだ。
「おっ先〜!」
「んにゃろう……。」
腕を掴んでやろうと伸ばしたが、絡むことはなかった。
虚しくも空を切った手を握りしめ、ピッチをあげてその自転車を追いかける。
「……後でシメる。」
そう言うと、流川は、クスリと自嘲して、首を横に振る。
──出来るわけがねぇ。
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