秘めごと(夢小説)

□夏祭り
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ようやく目的の場所へたどり着くと、そこから花火が打ち上げられる河原との間を遮るものは何もなく、人の姿もまばらで絶好の観賞場所となっていた。

「間に合ったみたいですね!」

河原を正面に見下ろす位置に陣取ると、隣同士、肩がぶつかるほど近くに座る。
花火を見るのに体を傾け後ろ手に手をつくと、意図したように二人の指先が重なり胸の内側がくすぐられる。

夜風が火照った私の肌をやんわりと撫でる。
無言なのに、二人の間に流れる空気も、下界からかすかに聞こえる喧騒も、辺りに漂う虫の音も全てが心地よい。

ひゅ〜〜 どどーんっ!

満を持して色とりどりの大輪の花が夜空を彩る。

「わぁっ・・・!」

眼前に広がる壮大な眺めにしばし触れ合った指先の熱さも忘れ、食い入るように空に現れては消える刹那の光たちを見つめる。

目を離せずにいる私の耳元に秀吉様が口を寄せて囁く。

「綺麗だね。エマちゃんと俺だけのために上がってるみたい」

耳にかかる吐息にぱっと飛び上がるように少し距離をとり、熱くなったそこを押さえながら秀吉様を見つめる。

打ち上がって弾けた赤い花火に照らされたお顔は、優しくでも少し意地悪く微笑んでいて、ただ美しいと思う。

「あの、ここ何年か前に犬千代と偶然見つけたんです。秘密の場所だね、ってそれから毎年花火を見に来るようになって・・・・。あっ・・・・」 

諭すようなハシバミ色の瞳に見つめられ、秀吉様が何を言おうとしているのかを瞬時に察する。

「ごめんなさい、私また犬千代の事・・・・・」

居た堪れずに思わず顔を下げる。

「いいよ。気にしないで。だけど本音は、やっぱりちょっと羨ましいな、あいつのこと。俺の知らないエマちゃんいっぱい知ってる。

・・・・・・でも、エマちゃんのそーゆー顔見れるのって俺だけでしょ?」

え、どういう顔?と言おうと思って顔を上げた矢先、唇を塞がれた。

「んっ・・・!?」

軽くフワリと重なった唇はべっこう飴の甘い香りを残してすぐに離れていく。

「こーゆー顔。俺のことが大好きで、たまらないって顔」

とっびきりのとろけるような笑顔でいわれ私の脳もとろけたように思考が停止する。

「・・・・・俺エマちゃんのこと好きだ。誰にも渡したくない。

ねぇ、エマちゃん、・・・・・俺のものに、なって?」

真剣な瞳に見つめられ、真摯な言葉で想いを告げられ、喉が張り付いたように、声が出ない。
いまだに上がり続ける大音量の花火よりも、自分の胸の中で鳴り続ける心臓の方がよっぽどうるさいんじゃないかと思う。

一体どれだけの時間がたったのか、真剣な瞳がゆるりと弧を描き、答えを促すように首をかしげる。

「・・・っ。はい・・・・・」

蚊の鳴くような声で答えると、途端に秀吉様の顔が一気にほころぶ。

「やった!」

無邪気に笑う彼に心臓が鷲掴みにされたようにきゅうっと苦しくなる。

秀吉様のこと大好きだ、なんて、分かりきった想いなのに、とてつもない速さでその想いがさらに膨らむ。

「・・・・・ねぇ、もう一回口づけていい・・・?」

「でも、人が・・・・・。それに花火も見ないと・・・・」

「みんな花火に夢中で俺たちのことなんて気にしてないよ。それに今は花火よりもエマちゃんを味わいたい」

「・・・・・・っ」

この愛しい人は、一体どれだけ私を虜にさせれば気が済むのだろう。

断る理由なんてない私の唇に再び重なった彼のそれは、先ほどよりも丁寧にゆっくりと全体を覆った。

閉じたまぶたの裏で、幾度も閃光が弾ける。
遅れたように耳に届く爆音も気にならないほど、その柔らかい唇から与えられる幸せに夢中になっていく。
何度も角度を変えて吸い付いてくる唇に拙いながらも吸い付き返す。

「んっ、、、んっ、、、」

引き寄せられた後頭部を覆う指先が、耳たぶを優しくなぞる。
その妖しい感覚に背筋がゾクリとし、たまらず身をよじる。

「エマちゃん・・・・・・?」

「なんか、幸せすぎて、怖くなっちゃって・・・・・」

「エマちゃんのイヤなことはしないよ」

「・・・・はい」

そう答え熱に潤んだ瞳が合わさると、どちらからともなくまた唇が合わさる。

花火が全て打ちあがり静寂と闇が訪れ、辺りの人気がなくなっても尚、私たちは飽きずにお互いの唇を味わっていた。


夏祭り 終



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