秘めごと(夢小説)

□着崩れた浴衣
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今年最後の花火大会が開かれるこの日。
政宗様からお暇をもらった私と小十郎様は、少し贅沢をして貸切にされた屋形船の上で二人の時間を楽しんでいた。

「エマ、お前の浴衣姿、可愛いね」

「ふふ、小十郎様とお出かけするの久しぶりだから、少し気合入れておしゃれしちゃいました。気にいってくれました……?」

「ああ、これでは花火なんかよりも、お前に夢中になってしまいそうだ」

「もぅ!そんなこと言って。夕餉を頂いたら少し外に出てみませんか?夕焼けがとっても綺麗ですよ?」

「ああ、そうしよう」

黄金色の水面をゆったりと進む船上で振舞われた、豪華絢爛の膳に舌鼓を打つ。
腹がこなれてきたところで室内を出て船の後尾の手すりへと並んでもたれかかった。

「うわぁ、小十郎様、見てください!大きな夕日!きれいですね!」

「おいおい、そんなにはしゃぐなよ」

「ですが、ほら、藍色と橙色が交じり合って、水に反射して、きらきらして……!」

「わかった、わかったから!」

困ったような声音の小十郎様だけど、私の頭にぽんっと手をやり、細まった瞳の奥は、とても優しい。

「おい、エマ。こっちおいで。浴衣、着崩れてるな。直すから後ろ向いて」

「え?あっ、浴衣?!私ったら、まったく気づかずに。はしゃぎすぎて、本当に子どもみたいですね」

着崩れた胸元に我ながら苦笑し、何の疑いもなく小十郎様に背を向ける。

するとやんわりとお腹に手が回り、

「んっ、小十郎、様?」

髪を結い上げあらわになっていたうなじへ柔らかい口付けが落ちてきた。

「浴衣を直してくれるのでは……?」

「うん、直してあげる」

そうは言うものの一向に止まる気配のなく、うなじに吸い付かれるように何度も落ちる唇に、私の体の熱がじりじりと引き出される。

「小十郎様、花火、始まっちゃいますよ?」

「うん、知ってる」

「もうっ……」

(大人気ないなぁ。でも、かわいい……)

大好きな恋人に触れられることが嫌なわけはなく、抵抗という抵抗も見せず、むしろ吸い付きやすいように首を片側に傾け小十郎様の口許であらわになる面積を大きくする。

お腹に回されていた指先が誘われるように胸元に上がり、素肌を求める。

「あっ……」

そのままゆっくりと、着崩れして緩んでいた襟元からするりと忍び込む。

「小十郎様、ダメですって……」

私の言葉を聞いてか聞かずか、指先は敏感な先端をわざと掠め、十分な刺激を与えないまま膨らみをやんわりともみ始める。

「あッ……、小十郎様、着崩れ、直してくれるんじゃないんですか? っ……、これじゃ、逆にもっと広がっちゃう……」

「大丈夫。一旦全部脱いでからの方が、着付けしやすいから」

(えぇっ?!そういう問題、っていうか、ここで全部脱がされちゃうの?!)

「……いや?」

心のうちの戸惑いを悟られたのか、小十郎様がそう耳元で囁いてくる。

「だって、船頭さんだっているし、花火だって、もうすぐ始まっちゃうのに……」

「じゃあ花火が始まるまでに、終わらせればいい?」

「ちがっ、んっ……!」

指先が、触れられず疼いていた先端を捉え軽く捻られると、思わず言葉が途切れる。

「お前はここ、弱いね」

「あッ、そんなの、ずる、いッ……」

小十郎様の鼓動が背に感じられ、抱きすくめられるように腕が体に回り、空いていた左手で浴衣の裾がたくし上げられる。

「こじゅうろう、さま、そっちは、だめ……」

両手で手すりをしっかりと掴み、交差させた太ももをきつく閉める。

「どうして?」

「……だって、ソコ、触れられたら、もっと欲しくなっちゃうから……」

「……ッ!エマ……!」

途端、俯いていた顔を引き上げられ、肩越しに、貪られるように一気に口内が愛しい人の舌で犯される。

縦横無尽に動き回るその舌先が、私のそれを絡め取り、口蓋をくすぐり、唾液を掬い取る。

「んっ、っ……、っや、こじゅろ……さ、くるしっ、ぃ……」

「……ッ、あぁ、悪い……」

「はぁ、はぁ、はぁ……」

大きく肩で息をする私の胸を柔らかく揉み、労わるように優しい口付けをうなじへ、耳へ、頬へと落とし、私の緊張をほぐしていく小十郎様。

「だってそんなに可愛いこといわれたら、俺だって止められなくなるよ」

拗ねたような口調の彼を愛しく思いつつ、恍惚と瞳を閉じて優しい刺激に身を任せていると、
まぶたの裏でいきなり光が弾け、ついでどーんと爆音が耳をつんざいた。

とっさに目を見開くと眼前に大輪の花火が散り辺りを色とりどりに照らし出していた。

「うわぁっっ……!!」

気づけば、私を悪戯にまさぐっていた指先も動きが止まり、耳元では小十郎様が美しさに息を飲む音が聞こえる。

「きれいですね……!」

「ああ、きれいだ……」

愛する人に背から体を抱きしめられ、心臓の一番近くに熱い手のひらを感じたまま、言葉少なにしばし華麗な空での光の舞に心奪われる。

「思いがけず拍子抜けしてしまったな」

「もう、小十郎様ったら!」

バツが悪そうに眉をしかめる小十郎様を、くすくすと笑いながら見上げる。

すると柔らかい乳房を堪能した指先がその温もりを解放し、乱れていた襟元をピシリと正す。
そのまま手すりに手を付き私を胸の内に閉じ込めた。

離れていった指先を少し寂しく思いながらも、厚くて硬い胸板に背を預け二人で観る花火に例えきれない幸福を覚える。

「エマ……」

「はい……?」

「この続きは花火が終わったらね」

「ッ……!」

夢うつつにうっとりと空を見上げていた私は小十郎様の一言で瞬く間に現実へと呼び戻された。

(もう、ゆっくり観させてなんてくれないんだから!)

心の中で悪態をつきつつ、それでも求められる嬉しさと待ち受けている快感を予感して、口許が緩むのを抑え切れなかった。

着崩れた浴衣 終


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