秘めごと(夢小説)

□きらめく星空の下
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「あ、やっぱりこちらにいらっしゃったんですね!」

やぐらのてっぺんまで上りきると、そこにはごろんと足を放り出して寝転がる信長様の姿があった。
じろりと目線を私に向けた後、今一度頭上に広がる夜空へと視線を戻しながら尋ねる。

「何しに来た」

「光秀様が探しておられましたよ?」

「俺を連れ戻すために来たのか?」

「ふふ、そうじゃありません。信長様と一緒に時間が過ごしたくて来ました」

「光秀に叱られるぞ」

「そのときは一緒にお小言聞きましょう?」

「は!誰があやつの説教なんぞ聞くか。こちらに来い」

そう言うと片腕を開き私にそこに同じように寝転がれと促される。

「では、お言葉に甘えて…...」

着物が汚れるのにも構わず、信長様の腕を枕代わりに身を寄せ合うように寝そべった。
秋の夜に吹く風はすでに冬のにおいが混じっているようで、信長様を探して軽く汗ばんだ身体をゆっくりと冷やしていく。

「ここで何をされていたんですか?こんな所で寝ていたら風邪を引いちゃいますよ?」

「見て分からぬか」

そう呆れ気味に言われ改めて頭上に目を向けると、そこには降るような満天の星空が広がっていた。

「うわぁっ……。きれい……。手が届きそうなくらい近くてたくさん……」

新月の今夜は、星たちが我こそはと自己主張するように強く輝きを放つ。
そのまましばし瞬く星空の会話に耳を澄ませてみる。

「あ、流れ星!!お願い事!」

心の中でとっさに思いついた願い事を唱えてみるものの、もちろん3度など唱えきれるはずもなくて。

「あ〜、間に合いませんでした……」

「ふ、そうがっかりせんでも次から次へと降ってくる。次のが見れるまでに早口の練習でもしておけ」

「う〜〜ん、がんばります……。信長様は何かお願い事されるんですか?」

「どこの誰とも知らん天の者に願い事をして、叶うとも分からぬことを期待するほど俺は愚かではない」

「あ、それ、私のこと馬鹿にしてます?」

「それでいいのだ、女子供は。のんきに笑って星に願いをかけ、叶ったまだ叶わぬと一喜一憂するぐらいが平和でいい」

「うーん、そういうものですか。じゃぁ信長様の願いは誰が叶えてくれるんですか?」

「俺自身に決まっているだろう。自分の願いを自分で叶えられずして天下など獲れるものか」

「信長様ならそういうんじゃないかなっ、て思ってました」

「分かっているなら聞くな、阿呆めが」

「あ、また流れ星!!」

信長様の言葉を遮るように叫び、目を閉じ心の中で早口に願い事を繰り返す。

しかしまたしても間に合わず。

心底残念そうにする私を見て信長様が笑う。

「くく、何をそんなに必死になって願っておる?」

「それは……、言ったら叶わなくなっちゃうんで……」

「俺に隠し事をするのか?いい度胸だ。お前の口など褥で簡単に割れるぞ」

にやりと意地悪な笑顔で言われ頬がさっと熱を持つ。

「もうっ!じゃぁ、笑わないでくださいね……?その、年をとっても何十年先でも、こうやって信長様と二人で寝そべって星を見られますように、ってお願いしたかったんですけど…」

そういい終えると驚きに見開いた目が照れ隠しに逸らされ、その頬にはうっすらと赤みが差しているようにすら見える。

「貴様……、よくそんなことを恥ずかしげもなく……」

「本心ですよ?それに聞きたがったのは信長様のほう…」

最後まで言わずして気づけば唇が重なっていた。

「んっ、」

秋の夜風で冷えていた体は、合わさった唇から直接熱が注ぎ込まれるように内側からじわじわと熱くなっていく。

「貴様のそんなちっぽけな願いなど、俺が叶えてやる」

そう強い色の瞳で射抜かれるように見つめられどくりどくりと胸が高鳴る。

「それって……」

「ずっと俺のそばにいろ。そしてお前が笑ってくれることが、俺の願い、天下統一への高みへと到達するための活力となる」

「... ...はい」

いっそう近く身体を寄せる。

満天の星空に見つめられ、愛しい人の腕に守られるように抱かれ、強く打つ鼓動を頬に感じ、もう秋の夜風も体の冷たさも気にならなかった。


きらめく星空の下 終



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