秘めごと(夢小説)

□秘められた願い
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壁に寄り掛かるようにして彼女を待っていると、不意に名を呼ばれた。

エマ「虎松くんっ!お待たせ!」

振り向くと綺麗に着飾った彼女がそこにいた。

丁寧に結い上げられた髪も、いつもよりも色鮮やかな外出着も、薄く桃色に引かれた紅も、きっと家康様のことを思って用意されたものだろう。

そう思って胸がチクリと痛んだけれど、そんな美しい彼女が今は俺に満面の笑みを向けてくれているという事実がその痛みを甘酸っぱいものへと書き換えていく。

虎松「アンタ、すごく綺麗」

素直な言葉を瞳を見つめて伝えると、彼女は頬を染めながらもはにかんだ笑顔を返してくれる。

エマ「虎松くん、そんなにはっきりと言われると恥ずかしいよ。さっ、神社に行こうか!」

照れ隠しをするように早足で歩き始める彼女の後ろ姿に見とれながらをゆったりとあとを追った。

ーー神社に着くと、元旦なだけあって境内にはすでにたくさんの人が列をなしていた。
最後尾につき、他愛のない話をしながら自分たちの順番を待つ。

エマ「うわぁ、混んでるね」

虎松「はぐれないように、もう少しこっち寄って」

色気もなく手首を掴み引き寄せると、その細さにびっくりした。

虎松「細っ。アンタ、ちゃんと食べてるの?」

エマ「そう?女の子はこれくらい普通だよ? でも、虎松くんの手はやっぱり男の子なだけあって大きいね」

虎松「男の子って呼ばれるの、」

なんかイヤ、そう言おうと軽く反抗するように口を開くが、言い終わる前に掴み直すように手のひらを取られ、そのあとの言葉を失う。

そのままにぎにぎと触れられ感触を確かめられる。

虎松「ちょっ……!」

好きでもないやつにこんなことできるのかよ?!
いや、意識してないから触れることにも抵抗がないのか?

一瞬の間に思いを巡らせていたが、無邪気な彼女の声でなんとか冷静を取り戻す。

エマ「やっぱり剣を振るだけあってタコもあるし手のひらも硬いし、武士の手って感じ」

虎松「まぁ、当然」

そんなことを話しているうち賽銭箱へとたどり着くと触れていた手が自然と離される。

遠くなった温もりに寂しさを覚えながらも隣に並ぶ彼女と瞳を合わせ小銭を放り込む。

鈴を鳴らそうと伸ばした指先が図らずも触れた時、思わず息を飲んでしまったのは俺だけかな。

自分の願い事なんてそっちのけで、小さく手を打ち一心に願い事をする彼女をちらりと横目で盗み見る。

凛とした横顔、上を向いたまつげに雪のように白い肌。
薄く色づいた唇が小さく呟くように願いを紡ぎ出す。

時を忘れて見つめていると、瞳をゆっくりと開いた彼女がこちらを見てにっこりと笑った。

エマ「さっ、行こっか」

見てたことに気づかれなかったかと内心ドキドキしながら人の波に流されるように名残惜しく思いながら境内を後にした。


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