秘めごと(夢小説)
□秘められた願い
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エマ「虎松くんは、なんてお願いしたの?」
虎松「ん、武功が挙げられますように、かな。…後は、家康様がアンタにもう少し優しくなるように」
エマ「ふふっ、何それ。家康様は今でも十分優しいよ? そんなの気にしないで、もっとワガママなお願いすればよかったのに」
そう小鳥がさえずるように笑うアンタを見てるだけで、俺のワガママな願いなんて簡単に叶ってること、アンタには分からない?
虎松「アンタの願い事は聞かなくてもわかるから、聞かない」
エマ「えー? じゃぁ当ててみてよ?」
虎松「どうせ家康様にもっと美味しい料理を作ってあげられますように、とか、家康様が戦から無事に帰ってきますように、とかでしょ」
エマ「…う、ん。まぁ当たらずとも遠からずってとこかな」
バツ悪く泳いだ視線が全てを物語っているようで、思わず苦笑が漏れる。
虎松「アンタって、ほんと単純」
エマ「もうっ、笑わないで!」
虎松「ねぇ、アンタ見てると危なっかしい」
そう言うと今度は人波に揉まれる彼女の手のひらを直接取り、ほどけないようにと指を絡ませ繋ぐ。
エマ「あ、ありがとう……」
ん?
自分から俺に触れるのは平気なのに、俺から手を繋ぐとこんな反応をするのか。
俯き加減の頬が桃色に色づくのを見てその表情を正面から見たくなる衝動に駆られる。
ちょうどその時人波に後方から押されるように石畳につまづいた彼女の体が傾いた。
咄嗟に手を引き彼女の体を胸の内に収め、歩き去っていった群衆を睨むように目をやる。
大丈夫?と彼女を見下ろすと、時を同じくして俺を見上げた彼女の瞳がはっと見開き、
同じくらい大きく見開いた瞳の俺自身をそこに見つける。
虎松「あっ……」
エマ「っ……」
周りの雑踏も気にならないほど近すぎるお互いの瞳に吸い込まれ、みるみるうちに上気する頬を隠すこともままならない。
虎松「っ……。そんな顔して見ないで。勘違いしそう」
どのぐらいそうしていたのか、無理やり視線をそらし、見ているだけで気持ちが溢れ出してしまいそうな彼女の瞳を隠すように後頭部を引き寄せ己の胸に押し付ける。
エマ「ん、ごめ……」
あ、墓穴掘ったかも……。
こんなことをしたら逆に暴走している鼓動に気づかれてしまうかもしれない。
けど、なんか、もういいや。
少しでも俺を意識してくれるように、この気持ちに気づいてしまえばいい。
……彼女の気持ちを知っていながらちょっと意地悪かなとも思うけど、もう走り出してしまった想いは止められない。
ーー彼女と心が通じ合いますように。
神頼みでもしなければ叶わぬであろうと、彼女を見つめながらこっそりと願った本音の想い。
胸の内に秘めたそれが柔らかく色づき花開くのを感じながら、途切れることのない人波から彼女を守るようにその小さな体を抱きしめていた。
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