血桜鬼

□第3話
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元治元年6月ー

その日、千鶴と私は土方さんに呼び出されていた。私は一応の同席だ。






「失礼します。」
『失礼します。』






同席で沖田さんと平助君もいた。千鶴は安心した顔をしている。
まあ、土方さんと二人きりは私も気まずいし。

土方さんは不機嫌そうに口を開いた。






「お前に外出許可をくれてやる。」
「いいんですか…!?」
「市中をを巡察する隊士に同行しろ。隊を束ねる組長の指示には必ず従え。」
「はい!」






千鶴はやっと外に出れることになって凄く嬉しそうだ。

私は一応外出許可はもらっていたけど、千鶴に悪い気がして外出は皆の前では一度もさていない。






「総司、平助。今日の巡察はお前らの隊だったな?」
「なるほどねー…だから当番の俺らが呼ばれたって訳か。」






平助君は納得したように呟いた後、少し困ったように眉を寄せた。






「でも、今回は俺より総司向きじゃないかな。今日は総司の一番組が昼の巡察を担当だろ?」
「平助の八番組は夜担当だし、夜より昼が安全だって言うのは僕も同じ意見。」






すると沖田さんは悪戯っぽい笑みを浮かべ…






「でも、逃げようとしたら殺すよ?浪士に絡まれても見捨てるけど、いい?」






冗談のような口調で言う沖田さんを土方さんは睨みつけた。






「いい訳ねぇだろうが、馬鹿。何のためにお前に任せると思ってんだ。」
『そうですよ、沖田さん!千鶴に何かあったら沖田さんを私が殺します!』
「ええっ!?妃奈ちゃん!?」
『何なら今、土方さんからこないだ刀貰ったから切れ味を試しましょうか…?(黒笑)』






刀の柄に手をかけると






「ごめんね。少しからかいすぎたかな。でも、何が起きるか分からないのは本当だから。
危険を承知でついて来るって言うなら、僕の一番組に同行してくれて構わないよ?(早口)」
「……長州の連中が不穏な動きを見せている。本来なら、お前を外に出せる時期じゃない。」






土方さんは厳しい顔をしてそう言い放った。

長州藩の浪士達は尊王攘夷派と呼ばれ、日本に訪れる諸外国の人々を力で打ち払い、国内に入れまいと考えている人々。

そんな彼らが尊んでいるものは【天皇】。
【将軍】に仕え、幕府のために働く新選組とは、掲げる大義も信じる主君も正反対。

新選組と敵対する長州藩勢力が活発に動いている時期だと言うのなら、千鶴のようなお荷物を連れ歩くのは大変だと思う。

千鶴もそれは察知した様子で…






「どうして、外出を許可してくれるんですか?」






土方さんは目をそらした。






「江戸の家にも帰ってねえらしいし、京の町中で綱道さんらしい人物を見たって言う証言も上がっている。
それに……半年近くも辛抱させたしな。
機会を見送り続けたんじゃあ、綱道さん探しもこのまま進まねえだろ。」






へえ。土方さん優しいとこあるじゃん。
千鶴のことをきちんと考えていたんだね…






「あの…ありがとうございます…」
『土方さんって優しいんだね〜』
「うるせぇ。妃奈。お前は斎藤や総司並みに腕も立つから、単独での外出も許可してやる。
不安なら隊士を誰かつけて外出するといい。」
『はい!ありがとうございます。』
「それに今は、腹を壊してる隊士も多いしなー。
俺らも万全な状態じゃないし?」






平助君がそう言うと、土方さんは苦い顔をした。






『ここのところ凄く暑いですもんね…』






京の夏は凄まじい猛暑だった。

そのせいか、新選組隊士の多くはこの暑さのせいで体調を崩している。






「とにかく、俺は許可を出してやる。行くか行かないかはお前が好きに判断しろ。」
「…はい。」
『千鶴はどうする?私は個人的に外出ようかと思ってるけど。』
「私は…父様を探しに行きたいので、外に出ます!」






千鶴も沖田さんの巡察に同行して外出することになった。
私は空を飛んで空から千鶴達の様子を見守る。




「千鶴ちゃん、はしゃぎ過ぎ。巡察に同行してるんだってこと忘れないでね。」






千鶴は町が浮き足だってるからか、はしゃぎ過ぎたみたい。仕方ないけど…
その後一部始終見ていてため息をついた。

浪士達が新選組に気付き、奇襲してきたのだ。






『沖田さん…土方さんに怒られるよ。千鶴ほったらかしじゃん。千鶴も運がないけど。』






沖田さんは浪士達を捕獲し、千鶴を連れて屯所に戻る。






『……団子でも買うか。』






屯所に戻ると案の定、土方さんの怒号が響いていた。
お説教が終わると土方さんは浪士達を置いた部屋へ向かう。

多分…拷問か何かするんだろうな。
現代人の私はどんな拷問なのか想像つかないけど、ひどい拷問なんだろうな。

そして浪士達から京の町に火を放ち、天子様を連れ出すことやその会合が四国屋であることを聞き出した。

あれ?確か本命って池田屋じゃなかったかな?
でも、未来の情報を与えたらいけない…そう思う。だから私は黙っていた。

そして私は近藤さんの計らいもあり、池田屋に来ている。千鶴は屯所待機。
私は剣が一応使えるので、池田屋で助っ人みたいな感じで来ている。






『会津の人達遅いですね。』
「日暮れ頃にはとっくに連絡してたってのに、まだ動いてないとか何やってんだよ…」
「落ち着けよ、平助。あんな奴ら役に立たねぇんだから、来ても来なくても一緒だろ?」






平助君は焦りの色を見せ、永倉さんは少しの焦りも見せず笑っている。






「……だけどさ、新八っつぁん。
俺らだけで突入とか無謀だと思わねーの?」






それから私達は役人を待ってたけど、いくら待っても役人は現れなかった。

亥の刻ー

月も傾いたのでかなり時間が立っている。






「……さすがに、これはちょっと遅すぎるな。」
「近藤さん、どうします?これでみすみす逃しちゃったら無様ですよ?」






近藤さんは不意に立ち上がり、私の肩を叩く。






「如月君。少し池田屋から離れていてくれるか。」
『え?』
「ここは危険だ。浪士が下りてくるかもしれん。……最も逃がすつもりは無いがな。」




そして近藤さん達は池田屋に踏み入った。




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