血桜鬼

□閉話3
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慶応二年十二月ー…






『さっむ〜っ!』






身を切るような寒さで私は目を覚ました。




吐く息が白く、障子の向こうは妙に明るい。




もしかして………






障子を開けてみると






『わぁっ凄い!』






障子を開けた先は一面雪景色。空から降る風花が境内を白く染め上げている。






『冷え込むと思えば雪が降っていたとは。………あれ?あの黒い物体は……まさか。』






私はその黒い物体に声をかける。






『斎藤さん!』




「………お前か。今日は随分早起きなのだな。」




『寒かったので目が覚めたんです。斎藤さんは何してるんですか?』




「先程まで、道場で剣の稽古をしていた。
………稽古を終えた後、雪が積もっているのに気付いたから足を止めてみた。
………それだけだ。」




『………汗かいたなら早く程々にして中に入った方がいいと思いますけど。』




「妃奈こそ中に戻って火鉢にでも当たっていた方がいいのではないか。
冷えは万病の元と言うだろう。」






斎藤さんの指先は真っ赤になっていて、冷えきってる様子だったが、気にした様子も無さげ。




斎藤さんこそ火鉢に当たった方がいいと思うけど。




でも、頑固な一面もある斎藤さんは戻らないだろうから違う話題を振った。






『斎藤さんは雪が好きなんですか?』




「………雪というのは不思議なものだな。」






眩しそうに空を見上げ、ぽつりと呟く。






『不思議とは?』




「………美しい物も汚れた物もすべてを白く覆い隠す。この風景の中に身を置いていると、自分ではない清らかな何かになれるのではないかと………そう錯覚してしまう。」






そう言う斎藤さんは妙に満足気で私も気分がよくなってしまう。




斎藤さんは自分が汚れた物って言ってるけど、斎藤さんは綺麗だ。汚れてなんていない。そう思うけどな………






「………中に戻らぬのか?この寒さの中、その軽装では冷えるだろう。」




「平気です。私も雪を見たいので。」






吸血鬼は寒さには強いしね。暑さが天敵だけど。




斎藤さんは無表情でこっちを見つめ、






「………物好きだな、お前は。」






雪がしんしんと積もっていく様子を見ながら私はあることを思いつき、斎藤さんの近くによく積もっている雪をかき集めた。






「………何をしている?」




『ちょっと待っててくださいね。』






私が作っていたのは、雪ウサギ。




この量じゃ、雪だるまは無理だけど雪ウサギは作れるし………






『出来ました!雪ウサギです。どうぞ。』




「雪ウサギ………?」




『あれ?知らないんですか?雪だるまが作れない時は雪ウサギをよく作ってたから斎藤さんにあげようと思って作ったんです。』




「あげようって言っても、これをもらってどうしろと………」



『もしかして嫌いでしたか?』



「いや………」






小さく呟いた後、斎藤さんは雪ウサギを持ってる私の手を包み………






「手が随分冷えているな。部屋に戻ったら温めておいた方がいい。ひびやあかぎれができるかもしれん。」




『えっ………』






今更ながら斎藤さんに手を握られていることに気付き、頬が赤くなる。




男の人に触れられるのはあまり慣れていないから緊張してしまう。






「………どうした?頬まで赤くなってきたようだが霜焼けか?」




『ち、違います!』






てゆーか、頬を赤くした女の子に霜焼けかって聞くとはどんだけ天然なの?斎藤さんって………




恋愛にも奥手なんだろうなぁ………




私はそんなことを思いながら斎藤さんから手を離した。






「そろそろ中に戻った方が良さそうだな。お前に風邪でも引かせては土方さんに何を言われるか分からん。」




『分かりました。』






斎藤さんは手のひらにちょこんと乗っている雪ウサギを見ながらー…






「この雪ウサギはありがたく受け取っておく。………すぐに溶けてなくなってしまいそうなのは残念だが。」






そう言って斎藤さんは踵を返して本堂に帰って行った。




雪ウサギを手のひらに乗せた斎藤さんが可愛いと思ったのは私の秘密。




雪ウサギは昼すぎまで斎藤さんの部屋の窓の外にあった。




それを見て私は斎藤さんのことを知りたいと思った。






ある雪が降った日の物語ー…




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