血桜鬼

□第6話
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慶応三年三月ー…
将軍が慶喜公に代わり、季節は春を迎えた。
京の都にはもう桜が咲き誇り、町全体は華やいだ雰囲気に包まれていた。
千鶴は浮き足立っていた。






『千鶴、急がなくても大丈夫だよ。』




「そうそう、散歩だと思ってゆっくり行けばいいよ。」




「………気を付けます。」






ふと見ると、浪士が新選組を見つけると物陰に隠れたりしていた。
それを見て千鶴はー…






「なんか……怪しいですね。」




「あのね、いちいちそんなのに反応していてもしょうがないから。」




「そうですか?」




「もし本当に長州の間者だったらもっと堂々としているはずだよ。
僕らの姿を見て、慌てて動くような連中は正直言って雑魚かなぁ。」




「はあ……」




『その羽織も目立つようになりましたね。良い意味でも悪い意味でも。』




「そうだね。」






話はいつしか伊東さんのことになり、沖田さんは不満を洩らしていた。




千鶴は辺りを見渡すと何か見つけた様子。






「ーー薫さん!」




「ちょっと!」






千鶴は沖田さんの制止を振り払って走り出した。




確か、薫さんと言っていたから南雲薫を見つけたのか……!
千鶴はあっという間に人混みの中に入って行ってしまった。






『千鶴………』




「勝手な行動は慎めっていつも言ってると思うんだけど。全く、こっちの身にもなって欲しいな。」




『仕方ないですよ、千鶴ですもの。』




「やれやれ。」




『沖田さんは歩いてきてください。私は走って行きますから。』




「は?なんでーー」




『走って来たら屯所までの帰り道、おんぶして帰りますよ?』




「それは勘弁して欲しいな。」






私は沖田さんに釘を刺して千鶴が走って行った方向に走る。




正直言うと、今日は日差しが少しキツい。普通の人間には暖かいんだろうけど、今日はいつもより日差しが強めのようだ。




倒れないようにしなきゃ……




追いつくと、千鶴が薫に質問してるところだった。






「もしかしてあなたが聞きたいのは夜に行ったことがあるかどうか………じゃないかしら?」




「………もしも、それが秋の晩で薫さんが新選組の邪魔をしたのならーー」




『もしそうなら問題なんだけどな。』






千鶴は追いついてきた私に少し驚いた様子。




薫は私の登場が予想外だったのか千鶴同様驚いた顔をしている。
ただ私が真実を言う気がないことを悟ると平静を取り戻していた。






「あら、新選組の如月さんじゃありませんか。いつぞやはどうも。」




『いえいえ。で、心当たりはある、ない、どっち?』




「三条大橋なんて昼間は誰でも通るところじゃないですか。それに夜なんて………。
あの制札騒ぎで怖くて近付けやしません。
なのに、ただ顔が似てるというだけで私を疑うなんてひどいです。そんなこと知りません………」






嘘つけーっ!!




私は心の中で盛大につっこんだ。
私は嘘つけという言葉は発しなかったが、顔で表現していた。




薫は私の顔を見てそれを汲み取ったらしく、妖艶な笑みを私に浮かべた。
しかし、それに気付かない千鶴は……






「………あ、いえ、違うならいいんです!やっぱり薫さんな訳ないですよね。」






私は心の中で盛大にため息を吐いた。
千鶴は疑うことを知らないというか、純粋というか。




すると、沖田さんが追いついていた。ちゃんと歩いたようだ。
沖田さんは千鶴の今の呟きを聞いて、千鶴に厳しい表情を向けた。






「どうしてそう思うの?女の人だから?それとも自分と似てるから?」




「沖田さん!?そ、そういう訳じゃ………」






千鶴と沖田さんがにらめっこしてる間にーー






「もう行ってもいいですか?それじゃ私、失礼します。」




『あっ薫ーー』






彼は逃げるように去って行った。




すると背後から咳の音が聞こえてきた。






「………こほっこほっ!こほっ!!」




『沖田さん!?大丈夫ですか?』



「沖田さん!?」




「来るな!!こほっこほっ、大丈夫、だから。君達はそこでじっとしていて。
こほっ、こほっ、こほっ………」






沖田さんは千鶴や私に病気を移すまいと遠ざけている。






「こほっ、こほっ………こほっ………。っ………!」






私は沖田さんの背後に回り、背中をさすった。




沖田さんは目を見開いていたが、ありがとうという目を向けた。




千鶴はその様子を心配そうに見ていた。




しばらくすると咳は収まった。






「沖田さん、あの………本当に大丈夫ですか?」




「…………なにが?」






顔を上げた沖田さんはいつもの沖田さんだった。顔色は悪いが。






「なにがって………」






私はさすがに走ったりしたため、しんどかったから沖田さんの説教が始まったのを見計らい、真横の日陰に身を預けた。




日陰に入ると楽になった。




克服したのに………だらしないな私は。これくらいの日差しで音を上げるなんて。




少しすると説教は終わったらしい。






「あれ?妃奈ちゃん、大丈夫?顔色悪いけど?」




『ちょっと日差しが………いえ、何でもないです。帰りましょう。』




「…………?うん。」






そうして私達は屯所に戻った。




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