血桜鬼

□第7話
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慶応三年六月ー…




ある夜私は屋根にいた。
何故かって?千が屯所に向かって来ているから。
多分、いや必ず千鶴に鬼の話をするために来ているんだろう。
そしてその矛先が多分私にも向くだろう。
最初は時期じゃないから話してなかったが、本当は皆に嫌われたりしないかと不安なだけだ。
まぁ、千鶴もある意味同じだが。




ちなみに屋根と言っても千鶴と共同部屋の真上の屋根。だから千鶴の一人言とかも聞こえる。






「………そろそろ寝なくちゃ。」






千鶴は眠れない様子だ。まぁ、平助君達が新選組を抜けて寂しさが募るし、千鶴は今日小太刀の稽古をしたから気持ちが昂って眠れないのかも。




そう思っていると、私達の部屋に近づく気配。この気配は土方さんだ。






「今いいか?ちょっと広間まで来い。お前らに客だ。………妃奈はどうした?」




「さっき嫌な予感がするとかでどっか行っちゃいました。」




「………先に行ってろ。居場所の目星はついてるから。」




「は、はい!」






居場所の目星って………
前に見つかったからバレてるか。案の定、土方さんは梯子で屋根に登ってきた。






『何ですか?』




「お前と千鶴に客だ。さっさと行くぞ。」




『嫌です。』




「駄々こねんじゃねえ!行くぞ。」




『ちぇ。』






半ば強制的に私は広間に向かった。




そこには千と忍姿の君菊さんがいた。






「妃奈ちゃん、久しぶり〜!」




『千が来たのはあれを千鶴に話すため?』




「そうよ。千鶴ちゃん私、あなたを迎えに来たの。」






千の言葉を聞き、皆の反応は様々だった。中でも一番驚いていたのは千鶴だった。






「えっと………どういう意味?お千ちゃんの言うことよく分かんないよ。」




「まだ状況を理解していないのね。でも、心配しないで。私を信じて?」




「時間がありません。すぐにここを出る準備をしてください。」




「ちょ、ちょっと待ってください。どうして私があなた達と一緒に?」




『千、順序立てて説明しないと千鶴も皆も納得しないよ?』





そう言うと千は分かったという顔をした。




千から説明が始まる。






「………そうね。じゃあ順を追って説明しましょう。あなた達風間を知ってますよね?
何度か刃を交えていると聞きました。」




「………なんでそのことを知ってる?」




「ええと………この京で起きていることは大体耳に入ってくるのです。」




「なるほど。お前も奴らと似たような胡散臭い一味だってことか。」




「あんなのと一緒にされると困るんだけど。でも、遠からず……かしら。」




「………まあいい、風間の話だったな。」






土方さんは千が怪しいと踏んでいるけど、話は聞くみたいだ。






「あいつは池田屋、禁門の変、二条城と何度も俺達の前に現れている、薩長の仲間だろ。」



「仲間って言うより、彼らは彼らで何か目的があるみたいだったけどね。」




「どっちにしても、奴らは新選組の敵だ。」




「では、彼らの狙いが彼女だということも?」






千鶴は少し身構えた。当たり前か、千鶴にとっては核心に迫る訳だから。




私はさっきからこの話し合いを千鶴よりも後ろで聞いている。口はあまり挟まないと決めていたから。






「承知している。彼らは自らを【鬼】と名乗っている。信じている訳ではないが………」




「ですが、信じるしかないでしょうね。三人が三人とも人間離れした使い手ですから。」




「彼らが鬼という認識はあるんですね。ならば話は早いです。
実を申せば、この私も実は人ではありません。私も鬼なのです。」






言っちゃった……






「本来の名は千姫と申します。」




「私は千姫様に代々仕えている忍びの家の者で御座います。君菊と申します。」






君菊さんの紹介を経て、分かりきってた人には驚きは無いみたいだが、永倉さんは驚愕していた。






「この国には、古来から鬼が存在していました。幕府や諸藩の上位の立場の者は知っていたことです。
ほとんどの鬼達は人々と関わらず、ただ静かに暮らすことを望んでいました。ですが………」






私も私達吸血鬼も静かに暮らしたかった。出来ないことだけど………
話は進む。






「鬼の強力な力に目をつけた時の権力者は自分に力を貸すように求めました。」




「鬼達は………それを受け入れたんですか?」




「多くの者は拒みました。人間達の争いに、彼らの野心に、何故自分たちが加担しなければならないのかと。
ですが、そうして断った場合、圧倒的な兵力が押し寄せて村落が滅ぼされることさえあったのです。」




「ひどい………」




「鬼の一族は次第に各地に散り散りになり、隠れて暮らすようになりました。
人との交わりが進んだ今では血筋の良い鬼の一族はそう多くはありません。」




「それがあの風間達だと言うことかな?」






千は頷いた。
そろそろ核心に迫るー…






「今、西国で最も大きく血筋の良い鬼の家と言えば、薩摩の後ろ楯を得ている風間家です。頭領は風間千景。」




「風間千景………」




「そして、東側で最も大きな家は雪村家。」




「えっ!?」






自分の家名が出てくるとは思っていなかった千鶴は驚いていた。皆も。






「雪村家は滅んだと聞いています。ですが、その子はその生き残りではないか。私はそう考えています。
千鶴ちゃん、あなたには特別強い鬼の力を感じるの。」




「そんな………だって、私は………」




『私も感じる。千と同じ気配が千鶴からもするから。』




「妃奈ちゃん………?」




「千鶴ちゃん、あなたは鬼なの。ごめんね………これは間違いないの。」






幹部の人達も思い当たるからか千鶴も押し黙っていた。






「千鶴が純血の鬼の子孫であれば風間が求めるのも道理です。
鬼の血筋が良い者同士が結ばれればより強い鬼の子が生まれるのですから。」




「なるほど………嫁にする気か。」




「風間は必ず奪いに来るでしょう。今のところ、本気で仕掛けてきてはいないようですが、遊びがいつまで続くかは分かりません。
そうなった時、あなた達が守りきれるとは思わない。たとえ新選組だろうと鬼の力の前では無力です。」



「なあ、千姫さんよ。無力ってのは言い過ぎなんじゃねえか?」




「新八の言う通りだ。そいつはちっとばかし、俺達を見くびり過ぎだぜ?」




「今まで戦うことが出来たのは彼らが本気ではなかったからです。」




「本気になってもらおうじゃありませんか。本物の鬼の力、見せていただきたいものですね。」




「山南さん、それは………!」




「言っておくが………ここは壬生狼と言われた新選組だ。鬼の一匹や二匹相手にしたってびくともしねえんだよ。」




「そうですね。こっちだって泣く子も黙る鬼副長が率いてますからね。」




「お前は一言二言多いんだよ。」






実際そんな簡単なら苦労はしないんだよね。千も今同じこと言ったし。






「私達に任せてください。私達なら彼女を守れる可能性も高まります。」




「おいおい、決めつけんなよ。俺達が守れないっていうのか?」






千の申し出は皆拒み、その言葉は一様に怒気をはらんでいた。




そしてー…






「ここでちょっと話を変えますが………妃奈ちゃんのことです。」






来たか………目を少し伏せた。






「妃奈がどうかしたのか?」




「彼女からも強い力を感じる。でも、私達鬼とは少し違う。あなたは何者なの?」





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