血桜鬼

□第10話
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慶応四年一月ー…
江戸に戻った私達は、品川にある旗本専用の宿【釜屋】に身を寄せることになった。
肩に傷を負った近藤さんと労咳を患っている沖田さん、その看病の為に千鶴が松本先生のところに療養している。


鳥羽伏見での負け戦、大坂城撤退、そして幕軍の総代将たる慶喜公の恭順ーー。
どう見ても先行きが明るいとは言えない展開に、隊内にも不安な空気が立ち込めていた。


京にいた時の……近藤さんがいて沖田さんがまだ元気で……千鶴がいて、賑やかな時間はもう戻って来ない。
そう考えるとやっぱり寂しかった。


そして何より、誰より心配なのは……






『……土方さん、お茶が入りました。』






襖の中にいる土方さんに呼びかけるが、返事がない。






『………はぁ、入りますよ。』






入ると土方さんは部屋の奥にある文机に向かい、何やら書状をしたためていた。
その表情は鬼気迫る表情だ。


私は邪魔にならない位置に無言でダンッと湯飲みを置いた。






「……ありがとな。」


『いえ。』






チラッと見ると土方さんの顔は蒼白というよりは青黒く、目の下には深い隈が出来ていて体調も一際悪そうだった。
羅刹の土方さんにはこの陽が昇ってる時間帯は辛い筈なのに……
まるで何かに取り憑かれたかのように働き続けている。






『……失礼します。』






部屋を出ようとした時、島田さんが入ってきた。






「副長、いらっしゃいますか?」

「おう、どうした?」


「今日、お目通りがかなう筈の幕臣の方なんですが……何でも、約束に反故にして別の場所に出かけようとなさってるみたいで。」


「チッ……今日こそは何としても話を聞いて貰わなきゃ始まらねえ。
ちょっと出かけてくるからな。」






土方さんは肩を怒らせながら部屋を出ていった。


大丈夫かしら……






「いやはや、江戸に戻って来てからというもの、獅子奮迅の働きぶりですね。
副長は何とか薩長と再戦の機会を得るべく連日、幕府のお偉方に直談判しに行ってるみたいです。
隊士達も副長はあれだけ働いてるのにいつ寝てるのかって不思議がってますよ。」


『……』






いや、あれはいつとかじゃなくて絶対寝てないと思うよ。


羅刹というしがらみが余計疲労を蓄積させてるんだろうな……






『島田さん痩せた?』


「まぁ、山崎君が亡くなって仕事が増えましたからね。
彼の置き土産ですから、多少きつくても何とかこなさないと。
……それに、あれだけ頑張ってる副長を見てたら俺一人休むなんて到底出来ませんよ。」


『まあね。』






私は私で、沖田さんの一番組、井上さんの六番組の世話と仕事をしている。


私もかなり忙しい。


土方さんのお茶運びも仕事の合間をぬってやりに来たくらいだし……
私も痩せた方だ。
血を頻繁に飲まないと栄養は摂取してないに等しい。
人間の食べ物は食べても無駄だから釜屋に来てからは食べてない。
血は土方さんかなり無理してるから貰ってない。
だからまた吸血衝動が出始めた。また貧血気味だが仕方ない。


大丈夫……






「さて、それじゃ俺もこの後用事があるんで出かけてきます。」


『私も一番組に必要な物資買いに行かなきゃ。』






そういえば、最近辻斬りが増えてるっけ……
気を付けておくか……




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