血桜鬼

□第13話
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慶応四年六月。


沖田さんと別れ、私達は旧幕府軍の重要な拠点の一つ、白河城まで無事にたどり着いた。


先行していた新選組本隊とも漸く合流を果たした。
白河城にたどり着いた私達を真っ先に斎藤さんが出迎えてくれた。






「再び生きてお目にかかれたこと、大変嬉しく思います。……土方局長。」






土方さんとの再会を喜びながらも斎藤さんの顔色はあまり良くなかった。


疲労が蓄積している証拠だろうか。






「……お前も無事で何よりだった。随分頑張ってくれたそうじゃねえか。」






そしてすぐに嬉しそうな顔から真剣な顔になる。






「それで斎藤、……近藤さんは?」


「……」






斎藤さんは言いにくそうに目を反らしたが、意を決して土方さんを見詰めて口を開いた。






「近藤局長は……四月の末頃、板橋の刑場にて斬首に処されたと。」


『……』






斬首……わかってはいたけど、胸が痛む。


武士を目指したのに自ら割腹して責任も取ることが許されずに罪人として首を落とされたなんて…
武士としての誇りも何もない処遇だ。


土方さんは沖田さんに会った時から既に覚悟していたのだろう。






「そうか。近藤さんは……腹も切らせてもらえなかったか。」





土方さんの瞳の奥には暗い輝きがあり、隠しきれない絶望の色が見えていた。


近藤さんを一番慕っていたのだから、胸が痛まない筈がないのだ。






ーーーーーーー






その夜。


平助君と山南さんが土方さんと私を訪ねてきた。


二人は羅刹隊だから私達が到着した昼間にはまだ身体を休めていたらしい。






「君たちが帰還したおかげで今日は城内が騒がしく、普段よりもいくらか早くに目が覚めましたよ。」






山南さんの浮かべた淡い微笑からは本心が伺い知れない。


平助君は素直に感心したような口振りで言う。






「土方さん、かなりの大怪我だったんだろ? こんなに早く合流できるなんて思わなかったよ。」


「あちこちで戦が続いてる状況じゃあ、いつまでも休んでられねえだろうが。」


『私は反対したんだけどこの我が儘な餓鬼が言うこと聞かなくて。』


「餓鬼って何だ、餓鬼って。」


「あはは、土方さんすっかり妃奈の尻に敷かれてやがんの。」






私達は場を和ませた。


和ませないと土方さんが消えてしまう、そんな気がしたから。






「では、そろそろお暇しましょうか。我々の仕事は夜半から始まりますので。」






山南さんの言葉に平助君も無言で頷いた。


二人が部屋から出て行こうとした時、土方さんは思い出したように口を開いた。






「ーーああ、平助。悪いが斎藤を呼んで来てくれるか?」


「一君? ……わかった、呼んでくる。」






土方さんに逆らう理由は無いのだから平助君は当たり前に頷いて承諾する。






「けど土方さんは白河に着いたばかりなんだし、せめて今夜くらいはゆっくり休んでくれよな。」






気遣う平助君に土方さんは微かな笑みを浮かべて見せた。


二人が出ていくと部屋は沈黙に包まれた。


出ていけとも話せとも言わないからこうなる訳だけど。


私はふと左手を見ると、色素が薄くなり以前より消えかけていた。






『……』






私は無言で薄くなってる左手を擦った。


まだ帰りたくない。


この人の最期を見るまでは。


そう思った時、襖が開いて斎藤さんが入って来た。


土方さんは私達の発言を抑えるかのように素早く本題を切り出した。






「今後の戦いは俺が前線で指揮を執る。」


『……えっ!?』






突然の発言に私は驚愕した。


敵味方が集う会津の最前線となれば激戦が繰り広げられているに違いない。


まだ怪我も治りきってないのにそんな所に赴くなんて自殺行為もいいとこだ。






「討ち死になさるつもりですか。」






斎藤さんは淡々と問いながら鋭い眼差しで土方さんを見やった。


私も土方さんを睨む。






「……みすみす殺されてやるつもりはねえよ。」






土方さんは何でもないような口調で告げる。



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