血桜鬼

□第18話
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翌日。


弁天台場が集中砲火を浴びていると土方さんのところに知らせが届いた。
新政府軍の総攻撃が始まったのだ。
弁天台場の戦況が厳しいことを聞くと土方さんは援軍を送ることを即断した。






「俺は弁天台場の援護に向かう。……妃奈、お前も来い。」


『はい!』






私は答えに土方さんは満足気な笑みをこぼした。






ーーーーーー






ーー土方さんが馬を駆る。馬を扱えない私は彼の後ろに乗せられた。


町の中を駆け抜けて、弁天台場を目指す最中。


突然にーー






ドォンッ!






一発の銃声が鳴り響いた。


強い衝撃に土方さんの身体が揺れる。






『ーーきゃっ!?』






私達はその衝撃で馬から派手に放り出されてしまった。






『痛……!』






馬はそのままどこかへ走り去ってしまう。


茂みに放り出されたおかげで私に目立った怪我はなかった。






『土方、さん……!』






衝撃に痛む身体を引きずりながら私は倒れた彼の元に歩み寄る。


彼を仰向けにさせるとーー






『ーーーーーー』






瞬く間に大地が真っ赤に染まった。


何度も戦場に立ったことのある私でさえ咄嗟に言葉を失ってしまう程の出血。


目の前が真っ暗になり、頭の中は真っ白になる。


しかし私は今やるべきことを思い出して土方さんに声をかけた。






『土方さん? 土方さん! 土方さん!!』






私が必死に呼びかけると彼の眉間に微かな皺が刻まれる。


即死かとも思われるような深手だけど羅刹の肉体はギリギリで命を取り留めていた。






『土方さん!!!』






私が叫ぶように名を呼ぶと彼はうっすらと目を開いた。






「妃奈。……怪我は、無いか?」


『はい……!』






彼は真っ先に私の心配をした。


私は泣きそうなのをこらえて彼の上体を起こす。






「……追撃を受ければ面倒だ。ここから離れて傷が癒えるのを待つ。」






私は彼に自分の肩を貸して歩き出した。


立ち上がると土方さんの脇腹から大粒の血が落ちる。






『っ……!』






私は一生懸命気丈なふりをして歩き出した。






ーーーーーーーー






少し歩いたところの茂みに彼を下ろして周りの気配を確認する。
幸い近くには誰もいないようだ。






『土方さん、ここには今誰もいないようなので今のうちに止血だけでもしておきましょう。』


「……ああ、頼む……」






土方さんのブラウスのボタンを外すとひどい傷が露になった。






『っ……!(ひどい…)』






私はすぐさま手拭いを裂き、土方さんに止血をしていく。もしもの為に雪村の里にいた時に千鶴に教えてもらったのだ。


私は土方さんに話しかける。


気を失わせたらいけない。






『弁天台場で皆さん持ちこたえてくれていると思います。島田さんや大鳥さんもいますから……』


「ああ……新選組の名は伊達じゃねえさ……」






止血を完了したが手拭いからはまた真新しい血が滲んでくる。


もしかしたら羅刹の治癒力が弱まってる?






『土方さん、少し休憩したら五稜郭まで退きましょう。』


「……」


『土方さん?』






土方さんからの返事がない。土方さんの顔は血色を失い、真っ青になっていた。






『土方さん? 土方さん聞こえてますか!?』


「わめくな……聞こえてる…」


『休憩したら五稜郭まで退きましょう。』


「ああ……っ……!」






見ると止血した手拭いはもう真っ赤に染まっていた。


どうしよう……! このままじゃ……!






『土方さん? 土方さん聞こえてますか?』


「……」


『土方さん!!?』






どうしよう、マズイ。このままじゃ土方さんが……!


そこまで思っていてふと気付いた。


彼は人間じゃない。羅刹だ。羅刹なら血を飲んだら回復するんじゃ……?


そう思った私は袖を捲って腕を刀に滑らせた。私の腕からは血が滴り落ちる。
私はそれを口に含み、彼に口移しで飲ませた。






『(お願い、生きて。土方さん!)』


「……ぅ……」






土方さんは目を開いた。






『土方さん……!』






私は唇を離すと笑みが洩れた。


一方土方さんは苦虫を潰したような顔をしている。






「自分を……傷つけたのか…」


『すぐに治ります。』






私は咄嗟に傷つけた腕を後ろに隠した。






「そういう問題じゃねえよ。誰が好き好んで惚れた女に痛え思いを味合わせてえもんか……少しは察しやがれ。」


『土方さん……』






そんなに私を大事に思ってくれているんだ……


私は笑みを洩らした。






『私だって、惚れた男の人が苦しんでいる姿なんて見たくありません。』


「何言ってやがる……」






私達は互いに薄い笑みを洩らした。






ーー私達は少し休憩して五稜郭への帰路を辿った。


でも……


新政府軍は既に五稜郭まで迫っていた。
襲撃を受けている五稜郭に戻るのは自ら撃ち殺されに行くようなものだ。
とにかく今は身を隠さなければ。


敵が及んでいない場所を求めて私達は五稜郭の裏手に回った。


そこには……





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