血桜鬼
□第1話
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新選組に身を置くことになって早1週間。
『どうしてもこの時間に目が覚めちゃうなぁ…』
私は朝5時頃に起きて、家の周りをランニングするのが日課で、ランニングが終わると朝食をいつも作っていた。
理由は母が料理下手だったからである。
吸血鬼は普段は血を食にしているので人間の食事は食べないのだが、私は人間として生きてみたかったので、自主的に朝食を作り、家族に食べてもらっていた。
『人間の食事はあまり美味しく感じないのに母さん達は美味しそうに食べてくれてたっけ…』
吸血鬼の舌には人間の食べ物は味がしないに等しい。
しかし、私は味がしなくても食べようとすることに意味があると思ってやっていた。
でも、今はその全てができない状態。
『朝早く起きてもやることないのに…どうしようかな。』
一応屯所の中なら歩き回っても良いと土方から許可をもらっている。
『外には出れないからランニングはできないし…
そうだ!新選組なら道場とかあるよね。剣の稽古なら素振りとかならできるかも!』
私は小さい頃から剣道をやっていて、朝食の支度が片付いたらいつも素振りをしていた。
そう思いたつと、道場の方に足を運んだ。
外は冬なのでまだ薄暗い。
そのためか、隊士や幹部の人達は全員寝ている様子だった。
道場に着き、探すと木刀を見つけた。
『(天然理心流って木刀が主流だったっけ…まぁ、多少重いけど大丈夫ね。空手で腕や足は鍛えてるし。)』
そうして、素振りを始めた。
「(…道場からなにやら物音がする…誰かいるのか?こんな朝早くから…)」
物音で目が覚めた斎藤は道場に向かった。
すると、妃奈が木刀で素振りをしているのを見つけた。
「(如月…?)」
「如月。」
『きゃっ!?なんだ斎藤さんか…びっくりした…』
集中していたのかいきなり話しかけられてびっくりした様子だった。
「別に叱ろうとしたわけではない…すまない。びっくりさせて…」
『いえいえ、私が気づかなかったのが悪いんですから…』
妃奈は着物の裾で汗を拭いながら言う。
「しかしあんた…剣をしたことがあるのか?そうは見えなかったが…」
「一応小さい頃からやってます。目録、師範代は持ってますよ。」
斎藤は驚いた。
美しい姿をした少女が剣を習っていて、師範代まで持っていることに。
「…素振りじゃつまらないだろう。良かったら俺と打ち合わないか?」
妃奈はその言葉に目を輝かせて
『お願いします!』
打ち合いを始めた。
すると、妃奈は平隊士以上で幹部も気を抜くと一本取られるんじゃないかと思うくらい剣が強かった。
バシッバシッ
木刀のぶつかり合う音が道場に響く。
「(打ち合いが俺とできるのは総司か新八くらいだと思っていたが…女で俺にひけを取らない奴が世にいたとはな。)」
二人共夢中になり、薄暗い外がすっかり明るくなっても打ち合っていた。
「…あれ?一くんと打ち合ってるのって…妃奈ちゃん?」
しかも、斎藤と互角、いやそれ以上に打ち合っていた。
「二人共朝ごはんだよ。」
沖田は二人に声をかけた。
「何?もうそんな時間か。急ごう如月。」
『あ、はい!沖田さんありがとうございます。』
「…うん。」
三人は広間に向かった。
「…斎藤、如月、何してたんだ?汗だくじゃねぇか。」
汗でびっしょりになった着物を見て土方さんを始め、広間にいたみんなが驚いた顔をした。
『道場で斎藤さんと木刀で打ち合いしてたんです。久しぶりに剣を握って打ち合ったので楽しかったです!』
「…お前剣ができるのか?」
「如月は剣を小さい頃から習っていて、今は師範代まで持っているそうです。」
斎藤さんのその言葉に広間にいた皆驚いた。
「お前師範代持ってんの!?」
「きしゃしゃな女の子と思っていたがそんな一面があったとは…」
「人は見かけによらねぇなー」
皆口々に感心する中、
「そんなに剣できるなら外出許可出せるんじゃない?土方さん?」
『えっ!?』
「そうだな…治安が悪いから剣も握れない小娘なら今は外出させられねぇと思ってたが…
剣を握れてしかも斎藤と互角…だったのか?総司。」
「うん、一くんの動きについていけてたし、一くん以上かもしれない。」
「それは俺からも言えます。」
土方さんは少し悩み、
「外出許可をくれてやる。ただし、出る時は幹部の誰かと一緒に行け。道にでも迷ったら困る。」
土方さんから外出許可が出た。
『ありがとうございます!!』
土方さんに私はお礼を言った。
「良かったな如月くん。じゃあ朝ごはんにしよう!いただきます!」
「「「「「「「「『いただきます!』」」」」」」」」
久しぶりに外出できることに妃奈は胸を弾ませていたー