血桜鬼

□第2話
2ページ/7ページ


私は皆が帰る前に空を飛んで屯所に戻り、部屋に座って土方さんを待った。






「待たせたな。実はお前に聞いて欲しいことがあってな。」
『なんですか?』
「訳あって今日保護した奴なんだが、この部屋で寝かせて欲しいんだ。他に部屋もねぇしな。」






あの鬼の女の子と共同部屋になるのかと私は頭を巡らせる。






『私は別に構いませんが…その子はさっき出ていった奇妙な気配と関係が?』






本当はさっき空から見ていたがぶちまける訳にはいかないので聞く。






「…さっきの奇妙な気配はお前がここに連れて来られたきっかけになった奴だ。白髪と赤い眼をした奴だ。分かるだろ?」






やっぱりそうかと頭を整理していく。






『駄目ならいいですが…彼等の呼び名はなんというんですか?』






土方さんに問う。
土方さんは少し悩み、答える。






「奴等は羅刹という。」
『羅刹…』






繰り返すと土方さんはさっき見た鬼の女の子を私の部屋に抱えてきた。
芋虫のようにぐるぐる巻きにされていた。






『可哀想…』
「仕方ねぇだろ。何者か分からねぇし…お前だって最初縛られてただろ。」






確かにと私が納得していると、






「明日こいつに今夜のことを聞くつもりだ。お前も一応参加しろ。」
『はい。』






返事すると土方さんは部屋を出ていった。
私は芋虫のように縛られていながら、安らかに寝息を立てている女の子を見た。






『呑気だな…』






私は女の子を布団に寝かせ、自分は外に出た。
吸血鬼なので1日くらい徹夜しても平気だ。






『朝まで屋根にいようっと。』






そう言うと誰も居ないのを気配で確認して屋根に飛ぶ。
そして屋根の上に寝ころぶ。






『いつ…帰れるのかな…母さん達心配してるはずよね。』






夜空を眺めながら呟く。
そして私は明け方まで屋根の上にいた。
明け方に部屋に戻ると、まだ寝息を立てている女の子がいた。






『ぐっすりだな…』






しばらくすると、女の子は起きた。






「ああ…全部夢だったら良かったのに…」






夢ではないでしょ。






『おはよう。』






私は女の子に声をかけた。
女の子は驚いた顔をして私の方を向く。






「あ…おはようございます…」






女の子は控えめな挨拶をする。






「もうすぐ幹部の人が来るから…そんなに怯えなくてもいいよ。私もあなたと似たような立場だし。」
「え…そうなんですか?」






その子が聞き返すと部屋の障子が開いた。






「ごめんね、こんな手荒な真似して…」






井上さんが来て女の子の縄を手首以外ほどく。






「皆が君の処遇について話し合ってて、君に聞きたいことがあるんだ。来てくれるかい?如月君も。」
『別に構いません。』






二人は広間に通された。
女の子は広間の真ん中に座る。

私は沖田さんの隣に腰を下ろした。
私は小さなあくびを漏らす。






「寝不足?」
『別に…明け方まで起きてただけです。』
「それは徹夜というんだよ?」






沖田さんは聞いてくる。






『(1日の徹夜くらい別になんともないんだけど。)』
『話は?』






促すと、斎藤さんが説明をする。






「昨晩、京の都を巡回中に浮浪の浪士と遭遇、相手が刀を抜いたため、斬り合いとなりました。隊士らは浪士を無力化しましたが、その折、彼らが【失敗】した様子を目撃されています。」






そう言った斎藤さんはちらっと女の子に視線を投げた。

女の子は思い切った様子で口を開く。






「私、何も見てません。」






きっぱりと女の子が言い切ると少し土方さんの表情が和らぐが、平助君の質問でそれは厳しい表情に戻る。






「なあ。お前本当に何も見てないのか?」
「見てません。」






身を乗り出した平助君の質問にも女の子は同じ言葉を繰り返す。






「ふーん…見てないならいいんだけどさ。」






すると、永倉さんが口を開く。






「あれ?総司の話では、お前が隊士共を助けてくれたって話だったが…」
「ち、違います!」






女の子は否定して沖田さんを見たけれど、彼は相変わらず感情の読めない笑顔をしたまま。






「私は、その浪士達から逃げていて…そこに新選組の人達が来て…だから、私が助けてもらったようなものです。」
「じゃ、隊士共が浪士を斬り殺してる場面はしっかり見ちゃったって訳だな?」
「!!!」







女の子は図星と言っていいくらい絶句している。
これでは見てましたって肯定してるようなものだよね…

私は溜め息を漏らした。

原田さんがさらに追い討ちをかける。






「つまり最初から最後まで、一部始終見てたってことか…」
「っ…!」
「お前、根が素直なんだろうな。それ自体は悪いことじゃないんだろうが…」







原田さんは曖昧に言葉を切った。

新選組にとって女の子の存在は【悪いこと】だから残念だけど殺さなければならないー…原田さんはそう言ってるように見えた。

女の子は必死に口を開いて震える声で主張した。






「わ、私…私、誰にも言いませんから!」






それ言ったら見てましたって肯定してるようなものだよね…






「君に言うつもりが無くとも、相手の誘導尋問に乗せられる可能性はある。」
「う…」






山南さんが優しい声色のまま、女の子に厳しい現実を悟した。






「話さないと言うのは簡単だが、こいつが新選組に義理立てする理由もない。」
「約束を破らない保障なんて無いですし、やっぱり解放するのは難しいですよねぇ。」






斎藤さんと沖田さんがそれぞれに口を開く。

そして、沖田さんは女の子が恐れていたことを言う。






「ほら、殺しちゃいましょうよ。口封じするなら、それが一番じゃないですか。」
「そんな…!」






女の子は涙目で悲鳴じみた声を上げる。

すると、近藤さんがたしなめるように沖田さんを見て言う。






「…総司、物騒なことを言うな。お上の民を無闇に殺して何とする。」






その言葉を聞いた沖田さんは笑みを消すと、困ったように目を伏せた。






「そんな顔しないでくださいよ。今のは、ただの冗談ですから。」
「…冗談に聞こえる冗談を言え。」






斎藤さんもすかさず突っ込みを入れる。






『そうですよ沖田さん。この子の心臓に悪いですよ。』






私も沖田さんに突っ込む。
沖田さんは斎藤さんと私の言葉に照れたような笑みを浮かべる。






「しかし、何とかならんのかね。…まだこんな子供だろう?」






井上さんが困ったような表情を浮かべる。






「私も何とかしてあげたいとは思いますが、うっかり洩らされでもしたら一大事でしょう?」






山南さんも困ったような表情をしている。
さて、と言葉を区切ってから山南さんは土方さんを見た。






「私は、副長のご意見を伺いたいのですが。」






山南さんに【役職名】で促されて、土方さんは小さく息を吐き出した。






「俺たちは昨晩、士道に背いた隊士を粛清した。…こいつはその現場に居合わせた。」
「…それだけだ、と仰りたいんですか?」






山南さんは土方さんに問いかける。






「実際、このガキの認識なんざその程度のもんだとは思うんだが…」






その土方さんに永倉さんは問いかける。






「…けどよ、こればっかりは大義のためにも内密にしなきゃなんねぇことなんだろ?新選組の隊士は血に狂ってるなんてうわさが立ちゃあ、俺らの隊務にだって支障が出るぜ。」






筋の通った永倉さんの指摘に土方さんの表情が渋くなった。






「総司の意見も一理あるとは思うけどな。…ま、俺は土方さんや近藤さんの決定に従う。」





原田さんはそう言うが、






「…俺は逃がしてやってもいいと思う。」






平助君は困ったような顔をしていた。
なんか嫌な予感がする。






「こいつは別に、あいつらが血に狂った理由を知っちまった訳でもないんだしさ。」






ああ、悪い予感的中。
平助君って口を滑らす天才かも…
私は呆れた目で平助君を見ていると、






「平助。…余計な情報をくれてやるな。」






土方さんが眉間に皺を寄せて平助君を注意する。
平助君は失言にやっと気付き、あわてて口を塞ぐ。






「あーあ、これでますます君の無罪放免が難しくなっちゃったね。」
「うぅ…」






沖田さんの言葉に女の子は顔を歪ませた。




次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ