血桜鬼

□閉話
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土方さんの部屋の前に来たけど…正直嫌な仕事だ。

しかし、朝食に遅れると困るので勇気を出して声をかける。






『土方さん。…土方さーん!』






聞こえてないのかな…それとも留守?

なんか面倒くさくなった私は襖を思い切りスパーンと開けた。
そこにはやはり聞こえてなかったのか、土方さんは着替え途中で上半身を晒して、目を見開いていた。

…珍しいもの見たような。






「……何の用だ。」
『何の用だと言われても…』






朝食の時間だから様子見に来てきてと山南さんが言ったからとでも言えばいいのか。







「急ぎの用じゃねぇんだろ?」






頭で言葉を選んでいると、






「俺が着替えんのも待てねぇくらい、急ぎの用件なのかって聞いてんだよ。」
『いえ。』
「だったら大人しく待ってろ。男の着替えを覗く趣味がねえならその襖閉めて廊下に出とけ。」
『……興味はあるので見てもいいですか?』
「っ……!さっさと出ろ!!」






閉め出すように廊下に出され、パンッと襖を閉められた。






『ちぇっ…でも土方さん細身ながら筋肉ついててかっこよかったなぁ…』






ついでに言うと血が美味しそう…と思ったけど声には出さない。

そして空を眺めていると、着替え終わった土方さんが部屋から出てきた。顔は朝から不機嫌そうだ。私のせいかもしれないが。






「それで。お前がわざわざ俺の部屋まで来た理由を話せ。」
『朝ごはんの時間なので呼びに来ました。』
「……妃奈。まさかお前が自発的に俺の部屋に来た訳じゃねえよな。」
『いいえ。山南さんに土方さんが昨日も夜遅くまで仕事してたみたいだから様子を見てきてくれと仰って。』






さりげなく犯人を上げると土方さんがため息を洩らす。






『心配されてましたが。』
「いや。俺に嫌がらせするついでに、お前のこともいびってんだろ。わざわざ居候に【鬼の副長】の様子を見に行かせるなんてな。」






確かに。
すると、後ろから






「む。トシと如月君か…。意外と珍しい組み合わせだな。」






私達の微妙な空気を物ともせず、近藤さんは声をかけてきた。






『近藤さんおはようございます。いいお天気ですね。』
「ああ、おはよう如月君。こんなところで立ち往生とは何か問題でも起きたのか?」
「違ぇよ。それより近藤さん、あんたこそ何やってんだよ。もう飯の時間じゃねぇか。」
「う、うむ。実はなトシ。今日は如月君の言う通り特別いい天気だろう?
つい散歩がしたくなってな。朝稽古が終わってから屯所の周りをぶらぶら適当に歩き回ってきた訳なんだ。」






近藤さんらしいなと思う。天気がいいから散歩って…皆はあまりしないだろう。






「…少し遅かったか?皆に迷惑をかけまいと走って帰ってきたんだが。」
「別に。あんたらしい話だろ。さっさと飯食いに行こうぜ。」
「ああ、永倉君達を待たせたら悪いしな。」






近藤さんが私達に背を向けて広間へと向かう。
私は土方さんに背中から…






『土方さん朝から良いもの見せていただきました。』






笑顔でそう言うと、土方さんはこっちを向いて眉間に皺を寄せて…






「うるせえ。忘れろ。さっさと飯食いに行くぞ。」







その顔はかすかに赤かった。






「あ、やっと来たか近藤さん。どこまで散歩に行ってたんだよ?」






近藤さんが広間に入ると永倉さんが話しかけてきた。






「いやあ、すまんすまん。そう遠くには行ってないんだが、道端に蒲公英が咲いていてな。
もう春が来たのかとしみじみ感じているうちに時間が経ってしまった!」






照れ笑いする近藤さんに永倉さん達が苦笑している。






「…近藤さんらしいけどよ。せっかくの飯が冷めちまう前にさっさと音頭取ってくれって。」






原田さんが近藤さんに促す。






「うむ、そうだな!では皆の衆。美味い飯を食って、今日もきりきり働いてくれ!」






上機嫌な近藤さんの音頭でやっと今日の朝食が始まる。
ふと、土方さんと山南さんを見ると、静かに火花が散っていた。笑顔でぴりぴりした空気をかもし出している…

すると、平助君が声を上げた。






「うわ。…あのさ千鶴、おひたし作ったのって総司?」
「そ、それはね…半分が沖田さんかな?」
「とりあえず野菜を茹でて、醤油浸すところまでは僕がやってたんだけど…ちょっと味見した一君が『これじゃ辛すぎて駄目』とか言って全部水洗いしちゃって。」
「俺は当然の処置をしたまで。塩分の取りすぎは健康を損ねる。」
「これはやり過ぎだって一君!このおひたし全然味しねえよ!」






そんな会話を聞きながらおひたしに手をつける。

当然ながらおひたしだけでなく、どの料理も私には味はしないんだけど…
味がしないのは私だけで充分。みんなには美味しく食事して欲しい。

私は思いたち、皆のおひたしの鉢を回収する。
みんなは私をどうした?というような目で見ている。






『近藤さん勝手場借りますね。』






みんなは私の背中を見てどうしたんだろ?と口々に話していた。

勝手場に着くと、おひたしを鉢から取り出し、胡麻をすり鉢ですりおろし、醤油等の調味料で味付けして胡麻和えを作った。

広間に戻り、皆の膳にその胡麻和えを入れた鉢を戻す。






「これは…?」






私は自分の膳に戻り、胡麻和えを食べる。当然味はしないんだけど。

みんなも恐る恐る口にする。






「えっ!ウマッ!!何これ!?」






平助君がそう叫ぶのをきっかけに広間では美味いという声が上がった。






「うめぇ!」
「本当に美味いな。これマジでさっきのおひたしか?」
『喜んでもらえたなら良かったです。』
「…妃奈、すまねぇが、まともな飯作れる奴があまりいねぇんだ。お前明日から雪村と当番に回れ。」
『…副長命令ですか?』
「ああ、美味い飯食うには越したことはない。」
『了解しました。』






こうして私は千鶴と一緒に毎日といっていいくらい勝手場に出入りするようになるのでした。
何故……




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