血桜鬼

□第3話
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「会津中将お預かり浪士隊、新選組。
ーー詮議のため、宿内を改める!」






高らかな宣言に小さな悲鳴が続いた。






「わざわざ大声で討ち入りを知らせちゃうとか凄く近藤さんらしいよね。」






沖田さんが声を弾ませて続く。






「いいんじゃねえの?……正々堂々名乗りを上げる。
それが、討ち入りの定石ってもんだ。」
「自分をわざわざ不利な状況に追い込むのが、新八っつぁんの言う定石?」






永倉さんも平助君もどこか楽しげに笑みを浮かべていた。






「御用改めである!手向かいすれば、容赦なく斬り捨てる!」






そして激戦が始まった。池田屋の中から絶え間無い怒号が聞こえてくる。
階段を駆け登る足音。誰かの断末魔。

私は今更ながら現代とは違う、幕末に来ているのだと思い知る。




「畜生、手が足りねぇ…!誰か来いよ、おい!誰かいねえのか!」
『あ…』






突入しなかった隊士は裏手に回っていて、永倉さんの声は聞こえていない。
その裏からも今は戦いの物音がする。
今突入できるのは私だけ…!






「大丈夫か、総司!?」
「くそっ!死ぬなよ、平助!」






…今は現代の価値観とか捨ててこの時代の人間になる。
私は刀を握り、池田屋に入る。

池田屋は血の匂いで充満していて、気を抜くと甘ったるい血の匂いで意識が飛びそうだ。






「死ねえ!!」
『!!遅いよ…!』






私は浪士の攻撃をかわして浪士を斬り伏せた。
肉の割ける気持ち悪い感触、血の甘い匂い…

人って簡単に死ぬんだ…私と違って…

一通り、入り口付近の浪士を殺すと…






「君が来たのか…!他の隊士は何をやっているんだ!」






近藤さんは珍しく焦りの滲んだ口調で言う。






『入り口付近はあらかた片付けました。』
「そうか。すまんが、総司を見てやってくれるか。
二階にいるのは、総司と浪士が一人だけだ。総司に限って負けはせんだろうが、手傷を負うかもしれん。
敵も相当の手だれだ。」
『分かりました!』






階段を駆け上がっていると、沖田さんの気配がした。
けれど、もう一方の浪士の気配は人間ではないことに気づく。
千鶴と同じ鬼の気配。

このままじゃ沖田さんが危ない!

階段を駆け上がってたどり着いた部屋の中には沖田さんとこの時代では珍しい金髪の浪士がいた。
金髪の浪士は多分鬼だ。
金属と金属が触れる鋭い音が響く。






「貴様の腕もこの程度か。」






金髪の鬼が目を細めて微かに笑う。
沖田さんは明らかに鬼の男に押されている。






「さて、そろそろ帰らせてもらおう。要らぬ邪魔立てするのであれば容赦せんぞ。」






池田屋の惨状には興味なさそうだ。
彼は本当に長州の人なのかな?





「悪いけど、帰せないんだ。僕達の敵には死んでもらわなくちゃ。」






そう言って、何の前触れもなく沖田さんは地を蹴る。
相手は我流の剣で対応する。
だけど、純粋な力比べだと鬼の方が勝ってしまう。

このままじゃ沖田さんが危ない!

私は近くに落ちていた茶碗を拾い、吸血鬼の腕力でまるで銃弾ような速さで茶碗を鬼に向かって投げた。






「……むっ!?」






鬼は驚くべき速さで飛んできた茶碗に驚きながらも、飛んできた茶碗を叩き落とした。

沖田さんはその微かな隙を突く。
しかし鬼はその沖田さんの一撃をなんとか受け止めた。
大きく体勢を崩して顔を不愉快そうにしかめる。
敵に視線を向けながら沖田さんは私にささやく。






「いい子だね、妃奈ちゃん。後でいっぱい褒めてあげる。」






こんな時に何を言ってるの!?
でも役立てたなら良かった…






「こしゃくな…!」






鬼は今まで以上の早さで剣を振り下ろす。
あまりの剣の重さに沖田さんの体勢が崩れたのを鬼の男は見逃さない。






「がっ!?」






凄まじい脚力で沖田さんは鬼の男に蹴りつけられた。
その衝撃に沖田さんは床を転がり、胸元を押さえながら血を吐いた。






『沖田さん!?』






沖田さんは辛そうに咳き込んでいる。もう沖田さんは戦うのは無理だ。
私は沖田さんの前に立ち、刀を構えた。






「……お前も邪魔立てする気か?俺の相手をすると言うのなら受けて立つが。」






私に刀がすうっと向けられた時、沖田さんが私を庇うように立ち上がった。






『沖田さん!?何を…!?』






沖田さんは戦うどころかそもそも立ち上がれる状態じゃないのに…!






「……あんたの相手は僕だよね?この子には手を出さないでくれるかな。」
「愚かな。その負傷で何を言う。
今の貴様なぞ、盾の役にも立つまい。」
「ーー黙れよ、うるさいな!
僕は役立たずなんかじゃないっ……!」






そこまで聞いて私はこれ以上沖田さんに無理させてはいけないと思い、手刀で沖田さんを一瞬で気絶させた。






「なんだ?仲間割れか?」
『これ以上無理させてはいけないと判断したから眠らせたまで。
あなたは鬼よね?なんでここにいるの?』
「ほう…勘がいい奴もいるようだな。」
『まだ相手するなら私が相手になるけど?』






私は鬼の男に口元のキバをわざと見えるように笑う。






「……?フン…。会合が終わると共に俺の務めも終わっている。」
『そう…』






彼は刀を納め、壊れかけた窓から身軽な仕草で外に飛び出した。

そして階下から響いていた音もいつの間にか止んでいるので、終わったのだと思う。
私は気絶している沖田さんをおんぶする形で抱え、一階に下りた。

長い夜が明けた。

新選組はこれで京では知らない者はいないくらい有名になった。
しかし、新選組の被害も軽くはなく…
沖田さんは胸を蹴られて血を吐いたし、平助君は額を殴られ血が止まらず、永倉さんは手を怪我した。
そして裏手で戦った隊士が1人死んだ。

ちなみに会津や所司代は土方さんが千鶴から伝言を聞き、食い止めたことで手柄を取られずに済んだ。

私は池田屋で千鶴は伝令でこの夜は大活躍したー




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