血桜鬼

□閉話2
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「ちょ、ちょっと待ってください、そこのお兄さん!芸者を連れてどこに行くつもりです?」






妓夫っていう男性に呼び止められた。






「説明なら後でする。今はつまらねえことに時間を割いてる場合じゃねえんだ。」




「困りますよ、お兄さん!芸者を落籍せたいんならきちんと手順を踏んでもらわないと……!」






私が芸者という格好をしてるせいで足抜けさせるんじゃないかと思われてるらしい。




ああ、めんどくさい。






「落籍させるだあ?何言ってやがんだ。この女はそもそもーー」




「はいはい、落籍じゃなきゃ駆け落ちですかい?
こんだけべっぴんだとのぼせ上がっちまう気持ちも分からなくはありませんがね。
じっくり詮議させてもらいますから、こっちへ……」




「いや、だからこいつは芸者じゃなくてーー」




『土方さんこの人聞く耳もたない感じだけど?』






説明しようとすればする程疑わしくなるみたい。




そうこうしてるうちに野次馬が集まってきた。






「何の騒ぎだ?酔っ払い同士の喧嘩か?」




「いや、芸者を連れだそうとする色男がいるんだってよ。」






ああ、頭痛い。飛んで帰りたい。




どうしたもんかと考えていると、土方さんに急に引き寄せられ………






「てめえ、俺を誰だと思ってやがんだ!
新選組の副長が芸者と駆け落ちなんてせこい真似するはずねえだろうが!」






あれ?開き直ったよこの人。まあ、説明しても無断だということは分かりきってるし。






「し、新選組ーー!?」






男性は顔を青ざめた。気の毒に。






「この女、訳あって俺が預かる。文句があるんならいつでも屯所まで来やがれ。」






低い声で啖呵を切った。




私は間近にある土方さんに見惚れて、ポーッとしていた。整った顔立ちしてる男って罪だなぁ……






「はっ……無礼な真似してしまい、申し訳ございません。」




「おら、見せ物じゃねえよ。さっさと道を開けろ。」






見せ物にしたのは土方さんだと思うけど。




土方さんが一睨みすると野次馬も退いた。






「急ぐぞ。角屋にいる浪士共がこの騒ぎを聞き付けて逃げ出さねえとも限らねえからな。」



『騒ぎにしたのは土方さんじゃん。分かったけど。』




「うっせぇ。一言余計だ。」






私達は島原の大門を出た。




土方さんは屯所に戻ったら隊士達を引き連れ、島原へと引き返して浪士達をめざましい手腕で捕縛した。




屯所に戻った後、沖田さん辺りから駆け落ちについてからかわれていたのは言うまでも無い。




数日後ー…




今回協力してくれた千と君菊さんにお礼を言うために土方さんと島原に来ていた。






「あっ、芸者と駆け落ちしはった土方さんが歩いてはる。」




「大胆なことしはりましたなぁ。あんなええ男になら、うちも連れ去られたいわぁ。」






芸者達がこないだの噂をしていた。ええ男か、土方さん顔はいいもんね。






「……だから駆け落ちじゃねえってのに。」




『噂には尾ヒレが付き物でしょう。』




「まぁそうだがなぁ。……今回はありがとな。浪士共を捕まえられたのはお前や千鶴のお陰だ。」




『……どうも。』




「ただ………しばらくここにゃ来られねえだろうな。無駄に顔が売れちまったし。」




『あんなに高らかに駆け落ち宣言したんだしね。』




「駆け落ちじゃねえって!ま、酒が呑みたくなったらお前に酌してもらえばいいだけのことか。」




『酒弱いくせに。まあ、いつでも酌くらいしてあげますよ。』




「ありがとな。………こないだのお前の着物姿悪くなかったぜ。
本当に芸者やってたら旦那になりてえって男がいくらでもいるんじゃねえか。」






土方さんからの意外な褒め言葉。なんか嬉しい。






『私は客あしらいや駆け引きはできませんよ?』




「確かにな。」






否定してよ。






「………けどまあ、あと数年もすりゃいい女になりそうだと思ったのは本当だ。
そのためにゃ、いい男に惚れていい恋しなきゃなんねえだろうがな。
つまんねえ男にゃ引っかかんじゃねえぞ。」




『分かった、お父さん。』




「誰が【父さん】だ、誰が!」




『土方さんがモテるの、分かった気がする。』




「何だよ、世辞だと思ってんのか?薬箱背負って行商してた頃ならともかく、今は他人におべっかなんざ言わねえぜ。」






そうなんですか?




土方さんって女性遍歴荒れてたっけ。なんか悲しい。






「それより急ぐぞ。とっとと用事済ませて屯所に戻って今日の仕事に取りかからねえとな。」




『はいはい。』






私は土方さんの後ろを歩いた。




恋をするならいい男か。土方さんもいい男だよな。って何考えてんの私!




どうでもいいことを頭から退いて屯所に土方さんと戻った。




また女物の着物、着たいなぁー…




ちなみに風間さんに首筋につけられた痕は土方さんに合流する頃には消えていた。




風間さん………呪ってやろうか。




物騒な考えが浮かんでたのは私だけの秘密ー…





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