血桜鬼

□第6話
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その日の夜ーー
千鶴は昼間の巡察のせいで中々眠れない様子だった。






「………役立たずの子供、かあ。」




『それ沖田さんに言われたの?』




「………うん。はぁ………」




『全く沖田さんは中身は餓鬼なんだから………もうちょい言い方変えたらいいのに。』




「いいよ、妃奈ちゃん。本当のことだもん。明日からもっと頑張るよ。」






千鶴はもう十分頑張ってるけどな………
そう思って、千鶴が目を閉じた瞬間。




バタンッ!!






『っ!?』






慌てて床から半身を起こし、千鶴を背中に回す。
襖がこっちに倒れていた。そして………。一人の隊士が立っていた。






「あの………何か?」




『っ………!こいつはっ!』






私はその正体を感じ取り、刀を手に取る。






「血………血を寄越せ……」




「っ!!妃奈ちゃん、この人っ!!」




『うん、【羅刹隊】の隊士だ。千鶴は下がって!』




「ひひひひ!血を寄越せえっ!」






こいつ完全に我を見失ってる!
千鶴を安全な場所にっ……




そう思っていると隙ができてしまったらしい。






『っ………!!』




「妃奈ちゃん!!」




『大丈夫、慌てないで。必ず守るから。』






切り裂かれた二の腕から血は一瞬吹き出し、畳を塗らしたものの、すぐに治った。
暗闇だからか千鶴には治った二の腕は見えてないらしい。




ふと気配が一人じゃないことに気づく。






『ちっ…………まずいな。』




「羅刹がっ………四人!?」




『血の匂いに当てられて前川邸から抜け出してきたか……』






このままじゃ、私はともかく千鶴が守りきれない。




こうなったら仕方ない……






『千鶴、今から見たことは土方さんや皆には秘密にしてね。必ず。』




「妃奈ちゃん………?わ、分かった。」




『いい子だね。約束だよ?』






私はそれを確認したら吸血鬼本来の姿、銀髪に赤い目の姿に変える。
千鶴が後ろで息を飲むのが分かった。






「ひゃはははははははは!血ぃ!血だぁっ!」




「もっと血を寄越せえっ!!」






羅刹達は私に向かって来る。




私は羅刹達の攻撃を一瞬で避けて、羅刹達の首をまた一瞬ではねた。




羅刹達の返り血が私に降り注ぐ。




なんとか平静を保ち、返り血で真っ赤になった私は元の姿に戻り、千鶴の元に駆け寄った。






『大丈夫だった?』




「う、うん。妃奈ちゃんさっきのは………?」




『話せる分だけあとで話す。』






私が千鶴に安否を確認したと同時に土方さん達が来た。






「おい、生きてる………か?」






土方さんは戸惑ったみたい。当たり前だろう。




私と千鶴の部屋は真っ赤に染まって、私の着物も真っ赤に染まっている。
足元には首が飛んだ羅刹隊士が四人転がっているから。






「妃奈、お前………」




「うわ、何これ。全部お前がやったの?」




『平助君正解!』




「お前………」




「な、なんなんですか、これは!?」




『あ。』




「ちっ。」






私と土方さんが言葉と舌打ちを発したのはほぼ同時だった。






「そこの隊士はどうしたんですか!?あぁっ、部屋を血で汚すなんて!なんて下品なっ!!
幹部がよってたかって……妃奈、何故隊士を殺したんです!?
説明しなさい!一体何があったんです!?」






伊東さんは私に詰め寄る。




すると






「皆、申し訳ありません。私の監督不行届です。」






なんで山南さんがここで出て来るかなぁ。めんどいことになった。






「さ、さ、ささ、山南さん!?な、何故、あなたがここに………!!」






伊東さんも山南さんの登場にはさすがに驚愕の表情を浮かべた。死んだと聞かされていたんだしね。






「その説明は後程。とにかくこの場の始末をつけなくては。」



「山南さんのせいじゃねえよ。」




「薬の副作用、ってやつなんだろ?仕方ねぇって。」




「ちょ、ちょっと、どういうこと!?薬?一体何の話、山南さん!?」




「………この件に関して、お答えできません。」




「私は山南さんは亡くなったと聞かされておりましたのにねぇ。
皆してこの伊東をたばかっていた、と?この伊東は仮にも新選組の参謀ですよ?
その私に黙ってはかりのごとを………。
納得のいく説明をしてもらえるんでしょうね!」




「ああっ、いちいちうるせえんだよ、てめえは。ちっとは黙っていやがれ!」




「なっ!?なんて口の利き方を………。土方君、あなたはっ………!!」






私は素早く伊東さんの背後に回り、手刀で気絶させた。






『うるさいんですよ。はぁ……』




「妃奈、お前………」






その時ーー






「………うぐぅ………っぐぁぁああ!」




『山南さん!?』




「下がれ!妃奈!」




『っ!!』






退こうとしたが、山南さんに素早く手首を掴まれてしまった。




山南さんは白髪に赤い目になっていた。






『くっ………離してっ!』




「血………血です。血をください。君の血を、私に………」




「やめろ、山南さんっ!」




「くそっ山南さんまで、血の匂いに当てられやがったか!」




「山南さん!そいつを離せよっ!」






皆実力で山南さんを押さえつけるか悩んでいた。




しかし、土方さんの言葉で迷いは打ち切られた。






「取り押さえろ!多少手荒になってもかまわねえ。」






皆は私の手首を掴んでいる山南さんを取り囲む。




山南さんは私の血………羅刹の返り血が混じった血を舐めた。




皆はそれを見て、一気に畳み掛けようとした。しかし、






「待て。山南さんの様子がおかしい。」




「………んぐうああああ………ああああ!!」




「お、おい。山南さんどうした?」




「………んん………んんん………わ、私は一体?」






山南さんは理性を取り戻したようだ。もうちょいだったのに、私の血で理性が戻ったか………






「如月………君。わ、私は一体、何を………?」




『血に触れて我を忘れてましたよ。今は大丈夫みたいですけど。』




「とにかく後始末するぞ。そこの死体を片付けて部屋の掃除だ。」




『土方さん私は井戸で髪とかについた血を流してきます。千鶴も手伝って。』




「あ、おい………!」




「妃奈ちゃん待ってっ………!」






私は土方さんの声に気にも留めず井戸に向かって歩き出した。




私は井戸で頭を洗いながら千鶴に自分のことを話した。




私は人間じゃない、吸血鬼という西洋の鬼だということ、さっきのは私の本来の姿で羅刹は私達の血から作られたなりそこないだということ。




千鶴は真剣に聞いてくれた。話し終えて気味悪がられると思ったら【妃奈ちゃんは妃奈ちゃんだから気味悪がったりしないよ】といつも通り接してくれた。




でも、千鶴には吸血衝動は話してない。千鶴の血は飲みたくないからーー





そして夜が明けたー…




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