血桜鬼

□第8話
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夜。




私は屯所の玄関付近にいた。
すると、後ろから忍び装束を纏った山崎さんが来た。






『ザキヤマさんどうしたの?』



「(ザキヤマさん?)………こんなところで何をしているんだ?一人で出歩かない方がいい。」



『心配してくれてありがとうございます。
私なら大丈夫です。中にいたらいざというときに対処が遅れるので。』




「そうか。だが、大変な報が入ったから皆に伝えなければならない。君も悪いが広間に来て欲しい。」




『(大変な報……?)分かった。すぐ行く。』






広間に行くとそこはさざめきに満ちていた。
夜遅くということもあり、集まった人は多くない。
沖田さんは最近労咳が悪化しているため、部屋で寝ている。そのため召集には参加していなかった。






『何かあったんですか?』






いつも冷静沈着な山崎さんが見せている焦りの色に私は不安を覚えた。
井上さんが口を開いた。





「山崎君が慌てるとは穏やかではないね。………伊東さんの暗殺に失敗したのかい?」




「いえ………それ自体は成功です。
我々は伊東の死体を囮に御陵衛士を油小路におびき寄せ包囲しました。」






伊東が死んだー…
嫌いだったとはいえ、知り合いの人の最期がたった一言で片付いてしまった。
しかし、山崎さんの言葉は私に感傷に浸る暇は与えなかった。






「ですがその際、永倉さん達と御陵衛士、双方を包囲する形で横槍が入りました。
………薩摩の連中です。」




『なんですって………!?皆は千鶴は無事なんですか?』




「敵の数はこちらを大きく上回っていたが恐らくあの人達ならばしばらくは持ちこたえてくれるはずだ………」




「………早急に援軍を送らなければならないね。動ける者は私と島田君とーー」




『っ………この気配は!』







ガッターン!




大きい物音が屯所に響き渡る。
私はそれと同時に玄関に駆け出した。
山崎さんが制止の声を上げたけど無視。
玄関に出るとそこにはー…






『風間さっ………!?何この骸の数は……!?羅刹?』




「妃奈か、ここにいるのはお前か………」




『千鶴じゃなくて残念でしたね。でもあんたの相手してる暇じゃないの。だからとっとと帰って欲しいんだけど。』




「つれないことを言うな。女鬼は二の次だ。今日はお前に会いに来たのだ。」






ガキィン!






「………つれないことだな。」




『あんたに構ってる暇はないの!油小路に行かないと………!』




「そんなにあの女鬼が心配か?」



『千鶴だけじゃない!原田さん、永倉さん、平助君もだもん!』






皆無事でいてっ………!






『邪魔しないで!』






私は吸血鬼本来の姿に変貌する。






「あのまがい物とは比べ物にならんくらい貴様は美しいな。」



『あんな成り損ないと一緒にしないでよ!』




「ふん………」




『………? んっ………!?』






うまく回らない思考回路で現状を確認する。




今の状況は風間に口付けをされているのだ。←三人称?






『んーっ!んーっ!んぁ………ぷはっ………はぁはぁ………』




「今日はこれで勘弁してやろう。気が向いたら俺のところに来い。」




『ちょっ………風間っ!』






そう言うと風間は闇に消えた。
私は唇を擦る。






『最悪っ………』






ガターンッ!






『今の音はまさか羅刹が屯所の中に………!?』






中にはろくに剣を振るうことさえままならない沖田さんがいるのに………!
しかし、その時感じた気配で私の思考はストップする。






『風間とは違う鬼の気配………?まさかっ!』






私は猛スピードで屯所に入り、沖田さんの部屋に駆ける。
沖田さんの部屋にたどり着くと羅刹が飛び込んで来るのは同時だった。






「妃奈ちゃん………?なんで………?」




「如月妃奈………。来ると思っていたよ。」




『南雲薫………!何しに来た?』






私は南雲薫を睨み付ける。
その時ー…






「沖田さんっ!?」




『ち、千鶴!?なんで………!?』






平助君の説得に行っていたはずの千鶴がいた。






「平助君のことは原田さん達に任せて戻ったの。沖田さんが心配で………!」




「やっと会えたね、千鶴。」




「か、薫………さん?」






しまった………
千鶴と薫を会わせるのは極力避けたかったのに………!
何故なら彼はー…






「私は妹を救うためにやってきた。」






千鶴を恨んでいるんだから。






「………僕は!僕は、まだ戦える!」




「………どうしても戦いたいと言うのですか?ならばーーこれを。」






そう言って薫が差し出したのは私が憎んでも憎みきれない変若水だった。
綱道からもらったとのことだった。
綱道は二人の実の父親じゃないことを知らされ、困惑する千鶴にその変若水はさらに追い討ちをかけた。






「私は確かに鬼です。
薩摩長州土佐の関係で、風間達と協力するように言われています。
ですが………大切な妹を、ただ子を産むためだけの存在としてしか見ないような奴らに、渡す気になれません。」




「………だから、変若水を僕に与えて妹を守らせようって訳?中々自分勝手な理屈だね。」




「………無責任な言い方でごめんなさい。でも、選ぶのはあたです。
戦いたいと叫ぶだけか、これで羅刹となるか。」




「僕はー…」






いつかこんな日が来てしまうと思っていた。




沖田さんは最近は追い詰められていた。
労咳に蝕まれていく自分の身体を恨ましく思っていたから。
でも、私は手を出さない。飲むと決めたなら私に口出す権利はないから。
私は羅刹を蹴散らしながら、事の事態を見守る。




すると、薫が私を背後から羽交い締めにした。






「薫さんっ………!?妃奈ちゃんに何を!?」






叫ぶ千鶴をそのままに薫は私の耳元で小声で話す。






「これ以上羅刹を減らさないでよ。今、いいところなんだからさ。」




『っ………あんた………!』






そうしてるうちに羅刹は沖田さんと千鶴に襲いかかる。
沖田さんは咄嗟に腰の刀に手を伸ばすけど、心だけで身体は追い付かず、刀は虚しく畳の上に落ちた。






「これが………今の僕か………、新選組一番組組長、沖田総司か………」






そう言うと薫が畳の上に置いていた変若水に手を伸ばした。






「!!駄目です、沖田さん!それを飲んだら………!」






千鶴が泣くように叫ぶと沖田さんは千鶴にいつも通りの笑みを浮かべてー…






「全く君はこんな時までーー」






そう言って沖田さんは変若水を飲んだ。
薫は私の背後でほほんでいた。




その後は白髪の羅刹の姿となった沖田さんが刀を振るい、羅刹を斬り殺して行った。
部屋に入ってきていた羅刹が絶滅するのに時間はかからなかった。






「………これで満足かい、南雲薫?」






薫は私を羽交い締めにしたまま賞賛の言葉を沖田さんに送る。





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