血桜鬼

□第8話
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「俺はそういうことを言ってるんじゃねえ。」




「ほう?」




「山南さん。総長ともあろうものが、隊規を破るつもりかい?私闘はご法度。知らねえはずはねえだろう?」




「ああ、なるほど。
しかし、彼女達は隊士ではありませんが?それでもですか?」



「隊士じゃねえが、ずっとここにいるんだ。………似たようなもんだろうが。」




「………ならば、仕方ありませんね。」






山南さんは刀を漸く納めた。
土方さんはその様子に柄に手を添えながら微動だにせず見守っていた。






「今日のところは引き下がりましょう。ですが、私の言ったことも少しは考えておいてください。」




「考えたって同じに決まってる。なんでこいつらを切り刻んで血を取ったりしなきゃいけねえんだ。
それに………もし俺が許したって近藤さんが止めるに決まってるだろ。」




「全く………近藤さんも土方君も他人事だからそうやって反対ばかり唱えるんでしょう。
ですが、もう羅刹は私だけではない。平助にとっても降りかかる問題なのですからね。
可愛い仲間のためにも少しは真剣に考えて欲しいものです。」






山南さんの言葉は苦々しいものだった。






『山南さん、一ついい?』






私は心の底から声を絞り出した。






「如月君?どうぞ。」




『理屈は正しいかもしれない。でも、山南さんあなた自身が血に飢えてたりしないわよね?
自分が血を口にするために小理屈立ててたりしないわよね?』




「………そんな訳無いでしょう。私は常に新選組のことを考えていますよ。
では、如月君、雪村君、また……」






山南さんは一つ笑みを浮かべて部屋から出ていった。






「ふぅ………」






息苦しさから解放され、千鶴は小さく息を吐いた。






『千鶴、大丈夫?』




「妃奈ちゃん……、大丈夫だよ。」




「悪かったな。」




『いえ、土方さんは悪くありません。こちらこそありがとうございました。』




「礼を言われるようなことじゃない。」






やっぱり土方さんは土方さんだな。
息苦しさはなくなったけど、いつもの張り詰めた空気はそのままだ。
私は土方さんの役に立ちたいなとふと思い、いつの間にか口を動かしていた。






『何か仕事ないですか?私にできることがあれば手伝わせてください。』




「………手伝いだぁ?」






土方さんのかもし出す空気にはもう慣れた。
怖くないもん。千鶴は怯えてるけど。






『お願いします。役に立ちたいんです。どんなことでも致します。(それに暇だし)』




「(なんか心の声が聞こえた気がするが……)
……隊士が行くよりは目立たねえな。」




『土方さん?』




「筆と紙だ。筆と紙を持って来い。お前の部屋にはそんな物もねえのか。早くしろ。」




『了解!隊長、筆と紙でーす!』




「誰が隊長だ!俺は副長だ!」






土方さんは不機嫌そうに受け取ると何か描き始めた。
あれは……地図か?






「……斎藤が三浦警護で天満屋に詰めてるのは知ってるな?あいつに渡して欲しいものがある。届けてきてくれ。」




『隊士が行くよりは目立たないってそういうことか。わかりました。届ける物は?』




「これだ。必要なことは全て書状に書いてあるから渡すだけでいい。」




『了解。………護衛は要りませんからね?』




「………(バレてたか……)」






私は千鶴に行ってくると言って、屯所を出た。




そして、屯所の真上の空に浮かびながら土方さんが描いた地図を開いて場所を確認する。






『ちょっと遠いな。まあ、飛んで行ったら夕方までには帰れるか。』






私は飛んで天満屋に向かった。勿論気配消して。




そして天満屋に着いた。
斎藤さんはここに山口という偽名で宿を取っているはずだ。
お店の人に山口さんを呼び出してもらった。






『あ、山口さん。呼び立ててごめんなさい。』




「なんだ、お前が来たのか。」




『暇だったので土方さんを丸め込んだんですよ。はい、書状。』




「ああ……」






斎藤さんは私が渡した書状に素早く目を通すと天満屋の提灯の火で燃やした。
残しておくといつどんな間違いが起こるか分からないかららしい。
一瞬で内容覚えられるもんなのかな?






「役目、ご苦労だったな。感謝する。」




『いえいえ。じゃあ、夕方までには帰りたいので、失礼します。』




「ああ。気をつけて帰れ。」






私は斎藤さんが天満屋に戻ったのを見て、路地裏に入り、また気配を消して飛んで帰った。






『ただいま戻りました。』




「ああ……入れ。」




『失礼します。眉間の皺が凄いですよ。』




「うるせぇよ。書状はちゃんと渡したか?」




『渡しました。何か良くないことでも?』






土方さんは眉間に皺を寄せたまま、話し始めた。




内部にも色々あるが、お上の方が良くない。
幕府と公家を巻き込んだ反幕府の人達との間で色々ありそうらしい。






『大変ですね。土方さんをある意味尊敬します。』




「そうか?お前、油小路で風間とやり合ったらしいが、何もされなかったか?」




『口付けされました。(さらっと)』




「なっ!?………あの鬼………!」





土方さんがますます不機嫌になった。
なんでだろうと見ていると土方さんがいきなり私の腕を引っ張った。






『わっ!?ひ、土方さん、何し………んっ!?』






私は目の前の状況が理解できずにいたが、唇に当たってる柔らかい感触で土方さんに口付けされているんだと分かった。
しばらくすると土方さんは唇を放した。
私は顔を真っ赤にして呆然とした。




それを見た土方さんは笑みを深めた。






「消毒だ。あいつと口付けしたのは一回だけか?」




『いえ、島原潜入の時にも一回………ふっ!?………ん、はぁ……』




「ったく………あいつともう口付けするなよ。」




『は、はい………(赤面)』






まさか土方さんがあんなことするとは………!
その夜私は顔が火照って眠れなかった。






その数日後、王政復古の大号令が下された。
それは朝廷が政治を行う、武士の時代が始まる前の姿に還ることを意味する。
幕府が将軍職が廃止され、京都守護職、京都所司代までなくなってしまう。
新選組が信じてきたものが大きく音を立てて崩れ始めようとしていたー…





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