血桜鬼

□第10話
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そしてその晩。






『ふぅ……終わったぁ……』






土方さんを見送った後にやっていた仕事が漸く終わった。
……完全にこの時代の人間になったなぁ。
横文字使うことがかなり減ったよ……


私はできた書類を土方さんの部屋に持っていく。
その途中、広間に平助君がいるのを見つけた。






「あ、よお妃奈! こんばんは。」


『……おはようの間違いじゃなくて?』


「それ言うなよ……間違ってはないけどな。」


『……あれ、他の隊士は?』






見渡すと他の隊士が見当たらない。






「新八っつぁんと左之さんなら下っ端隊士連れて吉原に遊びに行っちまったよ。
で、俺が留守番させられてるって訳。
俺、あの人達の使いっ走りでも何でもねえんだけどな。雑用押し付けられても困っちまうぜ。
……ま、以前と変わらない扱いをしてくれるっていうのは嬉しいけどさ。」






吉原……花街だと?






『この忙しい私を差し置いて遊びに行っただと……? チッ、後で説教だね。』


「(妃奈が土方さんに似てきたと思うのは気のせいじゃねえよな……?)」


『そういえば山南さんは?』


「山南さんは夜回りだってさ。」


『守る役目がある訳じゃないのに夜回り……?(怪しいな…)』






あの人は最近おかしい。
私も羅刹隊を見張る仕事を再開した方が良さそうね……
江戸で起きてる辻斬り……まさかね。


するとその時、土方さんが帰ってきた。






『あ、お帰りなさい。』


「……何だ、まだ起きてやがったのか。」


『私は吸血鬼ですから2日、3日くらい寝なくても平気です。
土方さんこそ寝たらどうですか?』


「……うるせえ。」






相変わらず青い顔で厳しく言い放つが足取りはおぼつかない。


張り詰めた気が緩んだ瞬間に倒れそうで怖いなぁ。






『はい書類。』


「ああ……、今茶を淹れてきてくんねえか?」


『分かりましたよ……』






私は歩くのも面倒だから飛びながら勝手場に行く。


そして茶を淹れて広間に行く。






『お茶請けは落雁くらいしかなかったんですけど、良かったですか?』


「構わねえ、飲んだらすぐ仕事に戻らなきゃならねえからな。」


「そんなに働いて大丈夫なのか? 羅刹になっちまったんなら昼間は寝てて夜だけ働いた方がいいんじゃねえの?」






茶で喉を潤しながら土方さんは言う。


ちなみに私はお盆を持ったまま空中に浮いている。






「……大坂城から引き上げる時にな、近藤さんに言われたんだ。
もし自分が大将だったら、たとえ兵士が二、三百人になっちまっても大坂城に立て籠ってとことんまで戦ってーー
最後は腹を切って武士の生き様を見せつけてやるのに、ってな。」


『……』


「大将がさっさと腹を詰めちまってどうするんだよ、あんたは潔すぎだ、ってたしなめておいたんだが。
……肩に弾食らって寝込んでるあの人がそこまで言ってる時に具合が悪いからって俺だけ休んでられねえだろ。
……近藤さんが戻ってくるまでに少しでも戦いやすい状態にしとかねえとな。」






そう言う土方さんの顔色はまだ悪かったが、瞳には確かに嬉しそうな光が宿っていた。


やっぱり土方さんの原動力は床で臥せってる近藤さんなんだな。


近藤さんがちょっとだけ羨ましいな。






ーーーーー






土方さんはまだ片付けなきゃならない仕事があるとかで、その後すぐ部屋に戻ってしまった。


また寝ないんだろうなぁ……


きっとキツイのはこれからだ。羅刹の吸血衝動……そろそろの筈だ。
その時は私がー…苦痛から救わなきゃ。




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