血桜鬼

□第10話
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次の日。
私は今日も仕事に励む。






「妃奈、飯食わねえのか?」


『いらない。永倉さんにあげといて。』


「ああ……大丈夫か?」


『吸血鬼だから1日2日ご飯食べなくても支障はないわ。』






でも血を飲んでないから体調は優れないのは事実。
陽に当たると立ち眩みがよくする。


でも……土方さんから今血を貰う訳にはいかない。
血を吸ったら倒れそうで怖い。
しんどい身体に鞭を打って私はまた仕事に取りかかった。






ーーーーーー






夜。


私はできた書類を持って土方さんの部屋に向かった。


襖越しに声をかけた。






『土方さん、書類ができました。』






中から返事はない。そのかわり……






「くっ、う……、ぐ……、くっ……!」






苦悶の声が聞こえてきた。






『!! 土方さん開けますよ!』






私は襖を開けて部屋の中に飛び込んだ。






「ぐっ、うっ、ぐ……、くっ……!」






土方さんは奥の文机に向かったままうずくまっていた。


額からは脂汗がひっきりなしに滴り落ち、食いしばった歯からは苦しそうなうめき声が漏れ聞こえる。


間違いない。吸血衝動だ。


私は書類を隅に置き、土方さんの元に駆け寄る。






『大丈夫ですか?』


「こんなもん、すぐに治まるに決まってんじゃねえか……!」






自らの肩を指が食い込む程強く握りしめながら土方さんは私を睨み付けた。
身体は悪寒があるかのように震え、唇からは苦し気な息が漏れる。


すぐに治まる……それはあまり期待出来ないわね。


分かる。吸血衝動は……とても辛いから。






『……』






私は無言で刀を鞘から抜き、刃を腕に走らせた。
腕からは血が滴り落ちる。






「お、おい、何しやがる!?」


『飲んで下さい。飲めば楽になります。』


「何言ってやがる。そんな真似ができるか……!」






額に汗の粒をいくつも浮かべながら真っ青な顔で土方さんは懸命に強がって見せる。


しかし私は引くつもりは毛頭ない。






『あなたが私に血を与えてくれるのと同じく、私もあなたに血を与えたい。
あなたが楽になれるなら、私は構わない。……お願い。』


「……」






歯ぎしりをして、手を伸べてなるものかと必死に強がっていたけれど、やがて根負けした。






「……馬鹿なことしやがる。嫁入り前の女が自分の肌に傷をつけるもんじゃねえ。」


『すぐ治ります。』


「……そういう問題じゃねえよ。」






土方さんは私が傷をつけた腕についてる血を舌で舐めた。


舌が私の腕を舐める度に鈍い痛みが走り、何とも言い難い感覚が背中を走る。






『っ……』






私の腕についてた血を綺麗に舐めとった時には土方さんの息遣いは明らかに楽なものに変わっていた。


土方さんの手が私の腕から離れ、髪の色素が戻り、目も赤から紫に戻った。






『大丈夫ですか?』


「ああ……、痩せ我慢してる場合じゃねえってことは俺もよく分かってるんだ。
近藤さんを負けさせねえ為にゃ……、化け物にでもなるしかねえんだよな。」






私は何も言えなかった。


同じ化け物として……






ーーーーーー






その後も土方さんは激務をこなし、時間を見つけては幕府のお偉いさんと会談を重ねた。


私は松本先生のところにいる沖田さんと千鶴によく仕事の合間に会いに行った。
沖田さんはまだ意識がろくに戻ってなかった。


その最中、新選組には旗本屋敷が屯所として宛がわれ全員がそこに移った。


土方さんは羅刹の毒と忙しさで身体は決して楽じゃない筈なのだけれど、近藤さんを戦わせてあげたい。
その一心が土方さんを突き動かしているみたいだった。


その気持ちが天に通じたのか……





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