血桜鬼
□第10話
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甲府に向かう朝。
広間には見慣れない服装をした人達で溢れていた。
私もその中の一人。
実は土方さんの指示で今日から戦の時は洋装にすべし、と言われたのだ。
土方さんは新しいものが好きだからな。
『わぁ、皆髪切ってなんか新鮮。』
「お、妃奈ちゃん可愛いじゃねえか!」
私はフリルが控えめの白いブラウスに、赤のリボンタイ、平助君のようなチョッキを着ている。
下は茶色いズボンに編みブーツ。腰にはちょっと可愛いベルトを通し、そこに刀を二本差している。
手には小手の代わりのような土方さんの着けてるような手袋を着けている。
髪は心機一転して横で結った。
「……敵は全員洋装だからな。勝つ為にはこっちの方が都合が良さそうだ。」
すると、私には斎藤さんの着方が気になった。
『斎藤さん、そこ……ボタンが一つ余って……』
「恐らくこういう作りなのだろう。」
『いや、これはボタンを掛け違えてますね。ここ、ボタン掛けてませんから……』
すると斎藤さんは顔を赤らめた。
「後で直す……」
『ふふっ……あ、原田さんかっこいいですね。』
「ああ、ありがとよ。だがこれボタン全部とめたら襟が苦しいんだよな……どうにかなんねえかな。」
『こことここまでボタン外してはだけさせたら苦しくないし、きっちり着るよりこの方が原田さんらしいですよ。』
「ありがとよ。」
私は土方さんを見た。
髪切って、黒を基調とした雅な雰囲気な洋装を纏った土方さんは役者のような端正な風貌で似合っていてつい見とれてしまった。
「どうした? 俺の着方にどこかおかしなところでもあるか。」
『あっ……いいえ、よく……お似合いです。』
「……おかしな奴だな。お前もよく似合ってるよ。」
『ありがとうございます。』
なんか恥ずかしいなぁ。
『あれ、近藤さんは洋装じゃないんですか?』
「いや、どうも異国の服は窮屈そうでな……
あの靴というものも、歩きにくくて仕方ない。
それにやはり武士というのは袴に刀を差していないとしまらん気がしてな。ただの我が儘かもしれんが。」
「……あんたはそのままでいいんだ。前線に出る訳じゃねえし、陣中にどっしり構えててくれりゃいい。
あんたの存在自体が、隊士にとって支えになるんだからな。」
「そうか? そこまで言われると照れてしまうが……
それでは出かけるぞ! 甲府城に、いざ!」
こうして新選組は【甲陽鎮撫隊】と名を改めて、八王子経由で甲府に向かうことになった。
途中で沖田さんも合流することになっている。千鶴も一緒だと思うけど……大丈夫かなぁ。
近藤さんは途中、故郷に錦を飾りたいということで隊士達と別行動を取ることになったのだけれど……
「……近藤さん、まだ追い付いて来ねえのか?
いつまで宿で酒盛りしてるつもりだよ。」
「ま、久々の故郷だしな、偉くなったところを見せて回りたいんじゃねえの?
久しぶりに嫁さんと娘にも会いてえだろうし。」
「偉くなったところを、って……、これから戦なんだぜ? そんなことしてる場合じゃねえだろ。」
永倉さんは近藤さんの振る舞いに明らかに不満の色を見せた。
近藤さんは八王子に入隊希望者がいるからその検分も兼ねて行っている。
新入りにはやはり盃酌み交わすのか一番手っ取り早いしな。
土方さんの説明に永倉さんはまだ不満そうに渋々呟いた。
土方さんはぼそりと独り言を呟いた。
「……金ばら撒いて接待しなくても隊士が集まって来るんなら、近藤さんにあんな真似させなくても済むんだがな。」
『……』
仕方ない。今は劣勢に立たされている軍にわざわざ入りたいっていう人はそんなにいない。
土方さんはやりきれないんだ。
その時……