血桜鬼
□第18話
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土方さんは斬りかかる前に走りながら羅刹の姿に変貌する。
一方風間も受け止める前に鬼本来の姿にと変わる。
キィンッ!ガキィン!
激しく刀と刀がぶつかり合う。
土方さんは間を空けないように刀を振るうが風間は余裕にかわしていく。
土方さんが一太刀力いっぱい振るうと風間は後ろに大きく飛び退き、再び刀同士がぶつかり合い、刀越しに二人は睨み合う。
『土方さん……』
土方さんは力を入れて風間を押し退ける。それからまた刀がぶつかり合う。
風間の刀が土方さんの肩を掠めた。また土方さんも風間の腕を一文字斬った。
「チッ……はぁっ!」
風間は舌打ちをすると、土方さんを蹴り飛ばした。
「うわぁっ!」
『土方さん!?』
土方さんは痛む身体に鞭打って立ち上がり、風間に斬りかかる。
しかしダメージが大きいのか、土方さんは再び風間に飛ばされた。
『土方さん……』
しかし土方さんは折れることなくまた刀で支えながら立ち上がる。
風間はその姿を真っ直ぐ見つめていた。
「でやぁああああ!」
また刀がぶつかり合う。
「(俺には守らなきゃならねえもんがある。だから……たとえ鬼にだろうと、負けられねえんだよ!)」
また大きく刀同士がぶつかる。
つばぜり合いで押し勝ったのは土方さんだった。
風間は飛ばされたが立ち上がった。
そして土方さんを真っ直ぐ見つめる。
「【羅刹】という紛い物の名は、貴様の生き様に相応しくないようだ。」
「ハァ……ハァ……ハァ……」
土方さんはもう息が絶え絶えで限界が近いことがわかる。
私はそんな二人の様子を後ろからじっと見つめていた。
「貴様は最早、一人の【鬼】だ。」
風間が、土方さんを認めた瞬間だった。
鬼という種に強い誇りを持つ風間が、変若水を飲んだ人間を【鬼】と称している。
それは間違いなく、彼にとって最上級の評価だろう。
「鬼としての名をくれてやる……、【薄桜鬼】だ。」
風間の唇がつむぎ出した言葉は不思議なくらい馴染んで聞こえた。
だって土方さんは桜が似合うから。
……まるでその名を呼ばれることさえ始めから決まっていたかのようだ。
「鬼として認められる為に戦ってきた訳じゃねえんだがな。」
土方さんは刀を構えて笑みを浮かべる。
「もう長くは遊べねえが、それでいいだろ?」
「無論だ。一撃で仕留めてくれよう。」
風間も応えるように刀を構えた。
『……』
勝負は一瞬で決まる。
間合いを保ったまま動かない双方の間を再び強い春風が吹き抜けていくーー
桜の花弁が高く天まで舞い上げられた。
互いの視界が桜色に眩んだ瞬間、二人は同時に地を蹴っていた。
交錯は、一瞬。
放たれた一撃は何の小細工も無く、ただ双方の全力が傾けられたもの。
『……!』
風間が振り下ろした刃の軌跡はわずかに土方さんの身から反れていた。
そして、土方さんの繰り出した鋭い突きが風間の胸を深々と刺し貫いていた。
風間の瞳は生死を分ける数瞬の後も驚く程穏やかな色を称えていた。
『……』
風間は刀が刺さったまま仰向けに倒れた。
「……」
土方さんは疲れきった顔をして風間を見た後、膝をついた。
「……ハァッ」
『土方さんっ!!』
土方さんの髪は元の黒髪に戻った。
私は土方さんを支えた。
だけど土方さんは目を閉じたまま。
『土方さん!』
そんな土方さんを見て、私の中にはこれまでのことが走馬灯のように流れていたー…