main(long love story)

□double espresso.5
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「うん、今確認したよ、ありがとう。ーーーーえ?」

車を走らせるローの横で、私は母親からの電話に出ていた。

『だから、ダンボールの中に入れたから、ちゃんと確認しておいてね』
「…ママ、何のこと言ってるの?」
『あんたもいい歳なんだから、ちゃんと考えなさいよ』
「…何を?」

そこまで言ったところで、耳に聞こえる充電切れのサイン。

「ーーごめん、充電切れちゃうから。またね」

神妙な声色で話す母親の声が気になったけれど、私はローの家に着くなり、荷物を中に運び入れた。






朝から何も食べていないので、早速台所でダンボールを開ける。
広いオープンキッチンはそれだけで料理が楽しくなりそうだった。


「ロー、食べれないものとかある?」
「…パンと梅干しが嫌いだ」
「パン嫌いなの?珍しいね」


ガサゴソと中身を取り出して、野菜と調味料を台所に並べる。
ダンボールの中身だけで、3、4品は作れそうだ。レトルトのご飯パックもある。



電子レンジや最低限の調理器具はあるものの、冷蔵庫はお酒とお醤油しか入ってなかった。
男の一人暮らしでも、ローは殆ど自炊しないタイプ。
ラックにかけてある菜箸やフライ返しなんかも新品同様だった。


「女性の名残」が一切ないキッチンにホッとしながら、ネギをひっ張り出したところで、明らかに野菜と違う紙袋が出てきた。

「?」

中身が傷つかないように丁寧に梱包されたものを、剥がして行く。


「……この事だったのね…」

3冊程冊子が入っており、一枚目の冊子を開いたところで、その内容に頭を抱えた。

「ーーーなかなか強烈だな」

横でローが目線を落としているその冊子。
開いたページの真ん中でニッコリ笑う太めの男性。
その濃いめの笑顔は、ローの言う通りなかなか強烈だった。

【OX商社 海外事業部部長 兼 取締役 】

有名企業の肩書き、さらに続く趣味はヨット、オペラ鑑賞。

ーーーー母親が念を押していたのは結婚と、お見合い相手の事だった。

社会人になってから、電話する度に結婚はまだかという話をされていて、適当にあしらってはきたつもりだが、ついに「お見合い」という形で私の前に出てきてしまった。


最悪だ。自分の結婚相手は、自分で決める。
私はコウタに結婚前提で交際したいと言われているし、男性からご飯に誘われる事もあるし、何より今隣にいるローが気になって仕方ないのに……


カシャ。


「…何してるの」

思考を遮ったカメラのシャッター音に、私は顔を上げる。
そこには口の端を上げて私にスマホの画面を見せるロー。


「いい絵が撮れたぞ」

その画面には、地べたに座り、ダンボールの前でしかめっ面で見合い写真を開いている私。眉間にシワが寄って、怖い顔をしている。

「消してっ」

立ち上がってローのスマホに手を伸ばせば、それは軽々と天井に向かってしまった。
私より背の高いローの手には、背伸びしようが背伸びしようが届かない。

「やめて!人の不幸をどこまでバカにする男なの?」
「…面白くてな、つい」

昨日のペンギンさんと同じ理由。
医者で頭が良くて見た目が良ければ何をしても許されると思っているのだろうか。悪びれもしないところがまた最悪。

「マナの飯が美味かったら、消してやるよ。それまで俺は勝手にやってるぜ」
「……本当に勝手なお医者さんね…」


私の言葉など全く気にしない様子で、リビングでくつろぎ始める彼。

「ギャフンと言わせてやる」

私は袖をたくし上げた。








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