main(long love story)
□double espresso.11
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「じゃーん」
「おぉっ!すごーい」
私が冷蔵庫からタッパーを取り出せば、想像以上に彼女は感動してくれた。
「あと、この唐揚げね」
ローが起きてくる前に揚げた唐揚げ。たっぷりと30個はある。
「マナ、ありがとう」
バスケットから可愛らしいお弁当箱を取り出して、綺麗に詰めていくラミ。
キッドと新宿御苑にピクニックへ行く事になったから、自分の代わりにお弁当を作って欲しいと頼まれたのが、3日前の事。
あくまでも作ったのはラミという設定である。「一応“作った“と言うなら、詰めるだけでもいいからやりなさい」と伝えた所、待ち合わせの前にここに立ち寄る事となった。
先月にキッドとスイーツパラダイスに行ったラミは、奢ってもらったお礼として、今回のピクニックを提案したらしい。
「…何なんだこの弁当は」
訝し気にピンク色のお弁当を覗き込む。
「ちょっとね」
「お前、手術前に誰とどこ行く気だよ」
どう考えてもラミ一人で処理できる量ではない事から、誰かと何処かに出かけると察知した彼は、いつものように眉間に皺を寄せている。
「まぁまぁ、ラミは近所にピクニック行くだけだから大丈夫よ」
来週からラミは手術の為に渡米する。
ローが彼女の体調を気にかけるのは無理もないが、きちんとくれは先生に外出の許可は貰っている。
この日の為に彼女がいろいろと根回しをしているのも、私は聞いていた。
「ピクニックだぁ?誰とだよ」
「……私からは言えないわよ」
明後日の方向を向いて私がシラを切れば、ローは妹に詰問する。
「言えないような男なのか」
「…お兄ちゃん、お父さんみたいだね?」
ラミのポロリと漏らした本音に、つい吹き出してしまう。
彼はそんな私を見て益々不機嫌な顔で声を出した。
「お前、またカードを凍結されたいのか」
「それは嫌っっ」
以前も言うことを聞かない彼女に、自分名義のクレジットカードを使えなくしたロー。
彼女の手術が終わったら、私の会社で働くことが決まっているが、今は自由に使えるのは彼から与えられたカードと、インターン中に自分で稼いだ分だけだった。
とにかく服や本が好きで、頻繁に買い物をする彼女は、それだけは困ると首を横に振った。
「言う!言いますから!私、これからキッドと新宿御苑に行くの!ピクニック!!」
ヤケになりながら告白する彼女。
ローは一瞬の沈黙の後、
「…キッドって、ユースタスの事か」
彼にしては珍しく目を見開いて言った。
「…そうだよっ」
「その弁当はあいつに食わせるのか」
「それしかないじゃん」
「…マナの弁当を何故ユースタス屋にやるんだ」
俺だってまだ食べた事がない、と不機嫌極まりない声で話す。普段はキッドと呼んでいるのに、いきなり他人のように名字で呼び出す彼が、なんだか本当に彼女の父親のようにも見えて、可笑しかった。
私は彼の後頭部に手を伸ばして、後ろからポンポンと寝癖のついた場所を撫でる。
「もう、ローったら雷オヤジみたいだよ?ヤキモチ妬かないの。お弁当なら作ってあげるから」
「だってさ、お兄ちゃん。よかったね!!」
ラミは詰め終わったお弁当をバスケットに入れて、そそくさと玄関に向かう。逃げ足は猫のように早い。
「あっ、おいラミ!!」
パンプスを履きかけたラミに近寄って、ドアを開けかけたところで呼びかける。
「…お前、キッドの野郎と何かある訳じゃないだろうな」
「……知らないよっ!お兄ちゃんのバカ!!!」
ラミは顔を真っ赤にしたままそう叫んで、出て行ってしまった。
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