main(short love story)

□小さな変化も
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女子たる者。

好きな人や恋人には自分の変化に気付いて欲しい。



「ん、上手い」

私の目の前で肉じゃがを頬張るのは、私の愛しい人。ロー。


「ふふ、よかった」


一週間ぶりに2人が一緒の夕飯、マナはニッコリと上機嫌に微笑む。

肉じゃがは、ロー好みの味付けで砂糖少なめにしている。
同棲を始めてから3ヶ月、だいぶ彼の好みも把握してきた。


パンじゃ無くてご飯派。
目玉焼きには醤油じゃなくてポン酢。

そして、女性の髪は短い髪より、長い髪が好き。


そんな訳で、私は月に一度の美容院でも、長さは変えずに毛先を整えて、いつものカラーにトリートメントが習慣だった。

それでも、少しだけ変化が欲しかった私は髪色を少し変えてもらったのだ。

アッシュ系のブラウンカラーから、ピンク系のブラウンカラーに。

社会人らしくベースは暗めなので、ほんの少しの変化であるが、目の前で箸を動かす恋人に「気付いて」と光線を送ってみる。





が、気づかない。




「マナ」


「ん?」


ジッとこちらを見るローに、期待を込めて見つめ直す。


「ご飯、おかわり」

「…はぁい」



期待が外れたマナは、ローから殻になった茶碗を受け取り、ご飯をよそりに行く。



(うーん、やっぱり男の人って気づかないのかしら)


ネイルも髪色も、女性の方が変化に敏感なのは当たり前。

女性が思っている以上に、男性は気にしていないものだ。

多分それは、男性のスニーカーコレクションを女性が理解できないのと同じ。



(ーーーーま、仕方ないな)



そんな風に諦めつつ、久しぶりに向かい合ってする夕飯はマナにとっては貴重で嬉しい時間だった。





ローは超名門セントラル•クレハ病院の外科医、マナは会社副社長として日々忙しい。

同棲生活を送る中でもすれ違いが多い二人は、ベッドこそ一緒にしているもの、いつもはどちらかが先に寝て、どちらかが先に出勤という毎日である。

マナはローの帰宅が遅い日も夕食は用意しておくが、やはり用意しておく側としては、暖かいうちに食べて欲しい。


(味付け、気に入ってもらって良かった)


そう思いながら食器を洗うマナだったが、腰の周りに温もりを感じて手を止める。



「ロー?」


振り向けば、先程までソファで食休みをしていたローが立っている。

「今日、美容院行ってきたのか?」


左手でマナの腰を引き寄せ、右手で髪をすくロー。



「…やっと気付いてくれた」

「いや、最初から気付いてた。やきもきしてるマナが可愛くてな。少し黙ってた」

その直後。
腕に力が込められて、ローと唇が触れるか触れないかの距離に近づく。



「自分の女の変化なら、すぐに気付く」

「っ…」



全く、この人ってズルい。

こうしてローの目に見つめられてしまうと、首を掴まれた猫のように何も出来なくなってしまう。



「変じゃない?」

「あぁ、綺麗だ。…喰っちまいたいくらいに」

「んっ…」

その瞬間、カプ、とローに唇を甘噛みされる。

次第に冗談めいた軽いキスが、深くなってゆく。


「は…っ、ロー」

「マナ、もっと口開け」


耳元で囁くローの声は、毒だ。

「…ろ、ぉ」


差し込まれる舌から、熱が広がる。
すれ違いで寂しかった心を、ローが満たしてくれる。




「ベッド行くぞ」

「ん…」



『行かない?』じゃなくて『行くぞ』と言う誘い方。

どこまでも俺様な私の恋人は、ひょいと私の上半身を片手で抱えると、寝室まで歩き出す。


マナは目を閉じて、安心してローに身を預ける。


(ーーーー髪に気付いてくれたのも嬉しいけど、何よりこうして、人を寄せ付けないローの腕にいることが、一番うれしいかも。)




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