main(short love story)

□ブランチを2人で
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朝日が差し込むベッドルーム。

仕事前のヨガの為に、いつも5時半に起きるマナ。
ゆっくりと目を開けて、窓の方に目を向ける。


ーーーーやばっ!


日差しの明るさからしてもう10時は過ぎている。完全に遅刻の時間だ。

勢い良く起き上がり、枕元の携帯を手に取る。

画面を見れば、[AM11:02 SAT] の文字。


「焦ったーっ、今日、土曜日か…」

焦ってカァッと嫌な火照りを感じてしまったマナだったが、隣で静かに寝ている恋人を見れば、一気に穏やかな気分に戻る。

「ロー…」

目を閉じて深く眠っているロー。

外科医の不規則な生活のせいで、平日は目の下の隈が消えない。

そっと顎に手を延ばして触れてみる。


医者らしくない顎髭も、話し方も、最初は驚いたが今では全てが愛おしい。


「くっ」

綺麗な顔して寝ていた筈のローが、いきなり笑い出す。

「えっ、ロー起きてたの」

「あんな叫び聞いたら、普通起きるぜ」

ーーーー私、声に出てたのね。


横になりながら、私を引き寄せるロー。


「ん、ーーーー」


ローの唇は、いつも冷たい。
体温が低いせいか、特に朝はそんな感じ。



長いキスの後、唇が離れるとそこにはしたり顔で笑うロー。

「今日は土曜だぞ」

「そうね、…ふふ」


私はローの上に乗ったまま、ゆっくり彼の胸に身体を預ける。

するとすぐに彼の大きな手が背中に回され、ゆっくりと撫でられる。


ローはベッドの中ではいつも裸で寝ている。
私も一緒に暮らすうちに、自然とそうなった。


こうしてお互いに布を纏わずにハグするだけで、とっても安心する。

よく男女の恋愛において身体の相性というと、セックスの相性ばかりが取り上げられるが、マナはそれだけじゃない、と思う。

ローとこうして恋人になってから、お互い抱き合った時の肌質や香り、腕を回した時にお互いにしっくりくる骨格、そういう相性もあるのだと知った。



しばらく静かに抱き合って目を閉じていると、


グルグルルッ


お腹の虫が暴れ出す。



「ーっ!」

「…ブランチでもするか、腹減ったよな?」


恥ずかしくて赤くなる私の頬を軽くつまむロー。



「あ、私作るからまだ寝てて。おにぎりでいい?」

「ああ」

自分のお腹の音を、ローが出した
ような言い方をしてごまかす私。



買い出しには行けてないが、冷蔵庫にはまだひき肉と、卵と、明太子もある。ローの好きなおにぎりならすぐにできる。


「マナ、やっぱりアレがいい、最近流行ってるおにぎりの進化系」

「…おにぎらずの事?」

「それだ。シャチがこないだ食べてて美味そうだった。…できるか」

「できるよっ!ロー先生♫」


普段、ものすごーくモテる私の恋人。
病院内のナースは勿論の事、患者さんの中までお弁当という差し入れを持って来ることも多々あった。

付き合い始めはそのモテ具合が心配だったが、貰う度に容赦無く受け取らなかったり、ひどい時はゴミ箱へ捨てたりするローの様子を、シャチから聞いて安心した当時を思い出す。


ローは外科医のくせに潔癖性で、レストランやコンビニ以外の手作りものは一切受け付けない人。

彼曰く、

「ただでさえ医者って肩書きに寄って来て好きだの抱いてだのうっとおしい女共の、手垢がたっぷりついたメシなんて気色悪くて食えるわけがない」

だそうだ。



そんな人を寄せ付けないローが、自分の手料理に関してはいつも残さず完食してくれる。

ど真面目におにぎらずが食べたいと言う。

そんな、ローが嬉しくて、ちょっと可愛くて。


マナは唇を綻ばせながら、ブランチの準備を始めるのだった。



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