main(short love story)
□優しく触れて
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「んっ…ロー…」
「マナ…」
情事の直後。
まだ吐息が不規則なうちにローの胸に引き寄せられる私の身体。
まだ速く波打つ彼の心臓に耳を傾けた。
ローの長い指先が、私の肩から背中を撫でる。
「…なんか肌、柔らかくなったな」
その手つきは壊れ物を触るように優しい。
「最近、頑張ってるの。ボディケア」
ローの広い背中に手を回しながら、親友のビビの言葉を思い出す。
『女性の身体は敏感にできているから、毎日ケアすればするだけ応えてくれるのよ』
秋から冬に差し掛かる時期だから、とヨガ仲間のビビに勧められたボディケア方法。
お風呂上りに全身にオイルを塗ってから、ボディークリームで保湿する。好きな人の事を考えながら、優しく優しく塗りこむこと。これだけ。
普段仕事に忙しく、拘束時間も長い私。
平日はどっぷりと疲れを溜め込んでいる為、睡眠時間確保のためにお風呂は毎日カラスの行水状態。出たらベッドに直行の日々だった。
でも、ローと同棲生活を始めてからは、当然肌を合わせる機会も増える訳で。
赤ちゃんみたいにふんわりした身体にしたい、とビビに漏らしたのがきっかけだった。
『考え方もヨガと一緒だよ。最初は硬い身体も続ければしなやかになるでしょ。ボディケアも今からやれば、絶対大丈夫』
遠く音信不通になっている人に、ちょこちょこ連絡を取って、親しくなって行くイメージ、と語るビビに成る程と納得したのを覚えている。
それから約一ヶ月。
毎日湯船にゆっくりと浸かった後、ローの事を想いながら優しく優しく身体に触れた。
お互い仕事も不規則で忙しい為、いつも同じ時間にはベッドに入れないけれど、眠りにつく前のこの儀式が、なんとも言えない幸福感をもたらした。
「…俺の為に?」
「……」
そうです、とは恥ずかしくて言えずに、私はギュッとローを抱きしめた。
たまらなく好きで愛しくて、その気持ちは本当なのに、素直に伝える事がなかなか出来ない私。
素直じゃないのは、ローもそうなのだけど。
付き合うとなった時も、お互いの気持ちがわからないまま、探り合いをして、喧嘩しながらだった。
「…マナの沈黙はYES。だろ?」
「……」
顎に手を回され、正面を向かされる。
そこには端正な顔。
「言えよ、マナ」
この人に優しく諭されると、なんでも言うことを聞きたくなるのは何故だろう。
「…ローの、為だよ」
自分でいいながら、顔が熱くなる。
「フ、」
ローは小さく笑いながら、私の赤くなっている頬を撫でる。
見られているのが恥ずかしくなり、私はローの唇を塞いだ。
唇を離して、私はローに囁く。
ーーーーこのまま、もう一度優しく触れて。
冬の寒い夜。できることならいつまでも、ローの体温に酔っていたい。
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