main(long love story)
□double espresso.2
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PM19時半。
「ーーーーーそんなわけで、今日も場所探しで一日終わっちゃった」
「通りで、足もパンパン身体もガチガチだったのね」
ネフェルタリ•ホテルでヨガレッスンを終えたマナは、ビビとホテルの中にあるバーに向かっていた。
先週の土曜日に来たばかりのバーは、月曜日だというのにすでに賑わっていた。
「おっ、いたいた」
バーカウンターの真ん中にいる男に話しかけるビビ。
「キッドくん、ご機嫌よう」
相変わらず派手な髪を逆立てているキッドは、作り立てのカクテルをウェイターに出していた所だった。
「これはこれは、ネフェルタリのお嬢様に、話題のシンデレラガールじゃねぇか」
「シンデレラガールだって、マナ」
キッドに合わせて悪戯っ子のように笑うビビ。
「もぉ、そのフレーズ恥ずかしい」
マナはむくれながらキッドに煙草1カートンを差し出す。マルボロの赤はキッドのお気に入りだ。
「この間はありがとう。お酒薄めてくれて助かったよ」
「…さんきゅ。お前、あの後大丈夫だったんだよな?」
「あなたの口の悪いお友達に助けて貰ったわよ」
「あいつの行儀が悪いのは昔からだ。ついでに言うと、女癖も」
キッドの口調からして、よほど気心の知れた仲なのだろう。
最後の一言が気になったけれど、マナはビビと共に奥の席に移動した。
「でもマナ、パパラッチされたそのパーティーも、そのローって人に連れてって貰ったんでしょう?ナミは気を付けてって言ってたけど、実はいい人なんじゃないの」
「ま、悪い人じゃないけど。ホントに助けて貰ったお礼に私もパーティーに恋人役で出席しただけだし、その後も特に…」
眼下に広がる夜景を見ながら、マナはまだ脳裏に鮮明に残っている記憶を振り返る。
前回ローとパーティに言ったのが土曜の夜。
そのあと深夜にローの部屋に行って、誕生日を祝って貰って。本当にそれだけ。
深夜に部屋に行ったのは私。
部屋を出る前にお酒を出したのはロー。
二人ともそれらしい行動をしていなくはない。
正直、いい大人の男女が同じ部屋にいれば一触即発もあり得る環境ではある。私も、――――多分ローも、分かっていての行動。
「お酒飲んで何したの」
「ただ話しただけだよ。パーティーの事とか合コンの事とか、仕事とか。気が付いたらいい時間になっていたから、私は一度部屋に戻って寝たりシャワーして、一緒に朝ごはん食べて帰った」
「何それ、キスの一つもないわけ」
「…ないよ」
あり得ない、という顔で目を見開くビビに、私も首を傾けて口を尖らせる。
「もうさ、しばらく恋愛してなかったから好きかどうかも分からないし、勢いにしたって何をどうしたらいいのか全く分からなくて」
部屋に出向いたので精一杯だった。
自分から動きすぎて、何かのボタンを掛け違ったら、きっと傷つく。
ローのような気難しいタイプなら尚更だ。
なんとなく人肌恋しい気分でもあったが、自分の気持ちも信じられなかったので行動もできなかった。
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