main(long love story)

□double espresso.3
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「では、姫の勝利を祝って」
「…」
「乾杯」


MOETのロゼシャンパンが入ったグラスが二つ、炭酸水を入れたグラスが重なり、高い音が響く。
何とも言えない初めてのメンバーでの乾杯。私は黙って2人に合わせてグラスを合わせた。

ローが車を止めたのは、ネフェルタリ・ホテルのバーカウンター。私たちが再会した―――私が助けて貰った場所でもある。

バーグレーとのファッションショーをめぐる争いも、世論を味方に付けたロビン・シック社の勝利で幕を閉じた。


バー越しに二人の向かいに立つキッドは、今日の様子を生中継で見ていたらしい。
共にキッドの友人ではあるが、接点のなかった二人が一緒にバーカウンターへやって来た瞬間、彼は目を大きく見開いていた。


「まさかあれからお前らが近しくなってるなんて思いもしなかったぜ。つーか、ロー、お前は今日飲まないのか」

ライムを一切れ落とした炭酸水を指さすキッド。

「車なんだ。ショーが成功したら奢れと、誰かさんにたかられたからな」

「…それ、私の事かしら?ローが先にコーヒー一年分奢れってたかったんじゃない!」

「忘れた。そうだったか?」

煙草を取り出すローに向けて言い返せば、キッドは白い歯を見せて大きく笑った。

「……お前ら、付き合ってんのか?」

「「付き合ってない」」

二人同時に紡いでしまった言葉。
互いに向き合うものの、先に目を逸らしたのは私。

まぁ、友達と言っていいのか、微妙にキスはしてしまったけど。


ピンクに色づくシャンパンを眺めれば、目に入るのは立ち上がる小さな泡。
なんだか自分のローへのふつふつと湧き上がるこの気持ちは、なんだがロゼのそれに似ている気がした。

「予想外な組み合わせだが…ま、マナは男から恋愛ふっかけにくいタイプだし、ローは特定の女を作らねぇから、逆にウマは合いそうだけどな」

「どうして真面目な私と貞操観念のない方が逆にウマが合うのかな?」

異議あり!とキッド手をあげて抗議する。全然、別物だと思うんだけど。


ローはあれだ。
多分、私に中途半端に触れることも、夜を過ごすこともさほど変わらないと思ってるタイプだ。
うすうす勘付いてはいたけれど、友人の彼がここまでハッキリ言うんだから事実なのだろう。



「…とりあえず、仕事第一で恋愛ご無沙汰な感じだな」

タバコを加えながらこちらを流し目で見るロー。その目線が出す色気を自覚しているのかいないのか、…多分これでお持ち帰りされる子は確実にいるんだろうな、と思う。

「…どうしてそう思うの」

「色気がねェ」
「隙がなさすぎる」


ローとキッドに一言ずつ指摘されて、ヤケでグラスを空けた。

自分達はモテるからと言って随分上からな言い方じゃないか、とむくれて次の一杯を手酌する。

「酔っ払えば出るかしら、隙も色気も」

「やめろ。俺のベンツで吐いたら弁償させるぞ」

「…マナ、もう素のお前をいいって言う男を待つしかないぞ。見た目は悪くねェ」

「もぉ、それ。褒めてるのかけなしてるのかわからないよ…」

ペタリ、とバーカウンターに頬をくっつけて体重を預ける。

酔いが回ってきた頬に当たるカウンターはひんやりとして気持ちいい。

そこに頭を預けながら、今後の自分はどうすべきなのか案を巡らせる。


1.このまま、キッドのいう「ウマが合う関係」とやらを続ける

2.ローにアプローチする

3.もう会わない


昨日のボンちゃんの話でいけば2だろう。

ゆっくりと身体を起こしてキスチョコを手に取った時、男達はその類の近況報告をしていた。

「そういえば、前に言ってた合コンの女ーーーリョウコだっけ?どうなった?」

彼女の名前が上がり、私もふとローの返答に耳を傾ける。あくまで自然にキスチョコを食べながら。


「一回寝たけどダメだ。いつものパターン」

「まぁ医者と分かっていればな」

さも鬱陶しい様子でタバコをふかすローの眉間にはシワが寄っていた。

「…だからこいつを代役でパーティに連れてった」

リョウコの代役か…。

ま、確かに足の長さや細さはかないませんよ、と頬を突き刺すローの手を振り払ってキッドに尋ねる。


「いつものパターンって、なに?」



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