main(long love story)

□double espresso.5
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ピピピ…ピピピ…

ベッドサイドで、スマホのアラームが鳴る。
私は頭だけ持ち上げて窓に目をやる。もう朝のようだ。
私はヒヨコの鳴き声で設定しているから、コレは、隣の男のもの。


「……鳴ってますよ」
「……」


ギシッとベッドを軋ませて、私の背後にあるベッドサイドに長い腕を伸ばすロー。

下着以外何も身に付けてない彼は、明らかに不機嫌な顔でアラームを止めているが、それすら絵になっていて。

「チッ、…消し忘れた」
「…いま、何時なの?」
「8時半」

ボスッとスマホを枕に沈めたローは、無愛想に答えると、また布団の中に潜り込んだ。

私も低血圧なので朝は強くはない。
だけれどこの人程、不機嫌オーラは出していないハズ。



…コーヒー飲みたい。



ベッドから抜け出て、昨日借りたバスローブに手を伸ばしたところで、腰ごとベッドに引き寄せられた。

「わっ…」

ボスン、と大きな音がして私は後ろ向きに倒れた。

「ロー、なに…」
「…俺は眠りが浅いんだよ。まだ抱き枕になってろ」

そりゃそうでしょうね、と思う。
ただでさえ忙しい外科医なのに、夜も医学書読んでるからね。私はダメ元で、希望を伝えてみる。

「…コーヒー飲みたい」
「却下。後でな」

そのままお腹に手を回されてしまう。
私も私で、下着の上はローから借りたTシャツ1枚だけ。


後ろから抱かれていて、彼の表情は見えない。それでもお互いの素肌は触れているわけで、私はどうしても前回の夜を思い出してしまう。
私は熱くなる頬が決してバレないように真っ直ぐ前を見つめた。



ーーーー昨日は思い切りローの前で泣き、「そばにいて」と精一杯の我侭を言った。

悪夢にうなされないようにと、ローのベットに一緒に入って、一晩中抱きしめられていた。
彼は片手で医学書を読んでいて、私はいつの間にかローの胸で寝ていた。多分最後に時計を見たのが3時過ぎだったと思う。



自分から頼んでしまった手前、私もこの手を払うことも出来ず、ーーーーーというか心地よくて、私も回された手に自分の腕を絡める。


まるで恋人同士のようなスキンシップ。
今回は適当な理由もなく、まぁ、最もらしい理由があるのだけれど。

昨日は身体を重ねる事もなかったけれど、逆にそれ以外の相性もあるものだな、と気付いた。

前回の情事では気が付かなかったけれど、お互いの骨組みがピッタリと馴染む感覚がする。回された腕の重さや形も、私の身体にしっくりと重なった。
過去の恋愛で、こんな風に感じたことはない。

ローの言う相性とは意味が違うかもしれないけれど、あながち間違ってないかも、と思う。




ローが起きてから、濃いコーヒーを飲もう。
私はローの眠りを妨げないようにして、ゆっくりと枕元に手を伸ばす。

スマホの電池は残り少ないけれど、構わず私はGoogleを立ち上げる。


ーーーーーーさて、これからどうしよう。

〈賃貸マンション 駅近 安心 〉

昨日あんな目に遭った以上、もうあのマンションに住む気が起きない。

一晩経って冷静になった私は、早速不動産関係のページを検索した。

しばらくは何処かのホテルに泊まるとしても、なるべく早く、新しい住処を見つけなければ。


「女性でも安心、オートロック…か」


不動産サイトの宣伝文句を眺めていても、正直ピンと来ない。
元々、高級賃貸マンションで、セキュリティー重視で選んでいたのに起こってしまった昨日の事件。

エントランスの防犯カメラも、オートロックキーも、一体どこまで信用したらいいんだろう。



悶々としたまま、私はため息をついた。







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