main(long love story)

□double espresso.7
2ページ/30ページ


ピヨピヨピヨピヨ…

ピヨピヨピヨピヨ…


月曜日の朝、5時半。


「……んーー、…」


ぼーっとした頭で枕元にあるスマホに手を伸ばす。

冬の早朝は外が暗くて、いつまでもベッドの中にいたくなる。低血圧にはある意味試練だ。

ヒヨコのアラームを止めて、隣の恋人を見れば、彼も目を擦りながら上半身を起こす。


「…おはよう、ロー」

「…おはよう」


私よりクマが酷くて低血圧な彼は、口調こそ穏やかなものの、渋い顔をしていて。眠りが浅い彼は、先程のヒヨコの音に目を覚ましてしまったようだった。


「まだ早いから、ローは寝てて。朝ごはん出来たら、また起こしに来るから」

「あぁ」

彼のあくびが終わったところで、チュッと右頬にキスをする。

初めて恋人同士として迎える朝。

口元にある無精髭すら愛しくて、私はそのままローの首に手を回した。
居候として一緒に過ごしていた時には出来なかった事が、今はできる。

私に応えるように、彼の手が後頭部に伸び、ポンポンとされる。


あぁやばい、幸せ。
なんかもう、その触り方すらウットリしてしまう。


幸せを噛みしめるように、そのまま頬ずりをして、もう一度右頬に3回キスして、力の限りぎゅーっと抱きついた。


「…なんだお前、デレッデレじゃねェか」

「………っ、すみません」


昨日何度も身体を重ねた割りに、相変わらずローのテンションは低い。

私はそっと身体を離して、空いた両手でバスローブに身を包む。

そうだ、ローはあんまりベタベタするタイプではなかった、ーーーーいや。それを言うなら、私もそうなのだけど。

らしくないくらい行動をとってしまうのは、多分相手がこの人だから。


舞い上がっている自分が恥ずかしくなって、彼に背を向けたままバスローブの紐を結ぶ。

そのまま立ち上がろうとした瞬間、後ろからお腹を引かれてローの膝の間に引き込まれる。


「きゃあ!」

「誰も嫌だとは言ってねェよ」


振り返れば、口の端を上げているローと目が合う。

腕でしっかり抱き留められながら、もう片方の手で顎を掴まれて。

ゆっくり近付く唇に、目を閉じた瞬間だった。



ピリリリリーーーー



枕元で鳴る着信音。

唇が触れそうで触れない距離のまま、問いかけた。



「ローじゃない?」

「いや、お前のだよ。…着信ママ=v



私の代わりにディスプレイを読み上げた彼。

朝早くからの着信に一抹の不安がよぎり、急いでスマホを手に取る。


「…おはよう。こんな時間にどうしたの?何かあった?」

『ーーーー何があったじゃないわよ、マナ!昨日ずっと連絡待ってたのよ、お見合い行かないって何!この親不孝娘ッ』


耳を近づけずとも大音量で聞こえるママの声。

私はスマホを離したまま小さく呟いた。


「げ、すっかり忘れてた」



後ろでクスリと笑うローに寄りかかったまま、私は気を取り直してそれを耳に当てる。


「ごめんママ、仕事が超大変で」

『すっかり忘れてたって聞こえたわよ。今』

「ーーーーう、」

地獄耳は相変わらず健在だ。
次の言葉を迷っていると、母親の厳しい声が先に出た。

『仲人さんにも返事しなきゃいけないんだから、納得する理由がなきゃ引き下がれないわよ』


「……実は、彼氏がいるんですが」


彼の膝に囲われたまま、私はゆっくりローに向かって座り直す。
彼の目を見ながら、「彼氏」と言うのは少し恥ずかしかったけれど。


『ーーーー彼氏?あなた今までそんな話、一切なかったじゃない。嘘をつくのはやめなさい』

「嘘じゃないってば」

『…まぁいいわ。所詮彼氏≠ナしょう?恋愛と結婚は別モノなんだから、とりあえず三人と会うって伝えるわね』


絶対イヤ!、と電話口で叫ぶ手前、ローに耳元で囁かれる。

「婚約してるって言え」
「!」


確かにそんな話は昨日したけれど。それは万が一子供が出来たら、という流れではなかったか。

思わず顔を上げると、顎でGOサインを出される。

「えぇと、婚約もしてます。の」

『……』

「……」

私を疑う長い沈黙。
母が黙るのは納得していないか、キレているかどちらかしかない。

『ママ信じないからね。あなたの性格からして、そんなの…』

「お母様、挨拶が遅くなりましてすみません。マナさんとお付き合いさせていただいてます、トラファルガーと申します」

「!?」

私のスマホを手から奪い取って、外用の声で淀みなく話す。


「実はもう一緒に生活もしていまして、ええ…そうなんです。…はは、…ハイ」

何でママと馴染んでるのこの人。



電話が終わったローはベッドに沈みながら、一言。

「日曜、こっち来るってよ」



.
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ