main(long love story)
□double espresso.7
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ピヨピヨピヨピヨ…
ピヨピヨピヨピヨ…
月曜日の朝、5時半。
「……んーー、…」
ぼーっとした頭で枕元にあるスマホに手を伸ばす。
冬の早朝は外が暗くて、いつまでもベッドの中にいたくなる。低血圧にはある意味試練だ。
ヒヨコのアラームを止めて、隣の恋人を見れば、彼も目を擦りながら上半身を起こす。
「…おはよう、ロー」
「…おはよう」
私よりクマが酷くて低血圧な彼は、口調こそ穏やかなものの、渋い顔をしていて。眠りが浅い彼は、先程のヒヨコの音に目を覚ましてしまったようだった。
「まだ早いから、ローは寝てて。朝ごはん出来たら、また起こしに来るから」
「あぁ」
彼のあくびが終わったところで、チュッと右頬にキスをする。
初めて恋人同士として迎える朝。
口元にある無精髭すら愛しくて、私はそのままローの首に手を回した。
居候として一緒に過ごしていた時には出来なかった事が、今はできる。
私に応えるように、彼の手が後頭部に伸び、ポンポンとされる。
あぁやばい、幸せ。
なんかもう、その触り方すらウットリしてしまう。
幸せを噛みしめるように、そのまま頬ずりをして、もう一度右頬に3回キスして、力の限りぎゅーっと抱きついた。
「…なんだお前、デレッデレじゃねェか」
「………っ、すみません」
昨日何度も身体を重ねた割りに、相変わらずローのテンションは低い。
私はそっと身体を離して、空いた両手でバスローブに身を包む。
そうだ、ローはあんまりベタベタするタイプではなかった、ーーーーいや。それを言うなら、私もそうなのだけど。
らしくないくらい行動をとってしまうのは、多分相手がこの人だから。
舞い上がっている自分が恥ずかしくなって、彼に背を向けたままバスローブの紐を結ぶ。
そのまま立ち上がろうとした瞬間、後ろからお腹を引かれてローの膝の間に引き込まれる。
「きゃあ!」
「誰も嫌だとは言ってねェよ」
振り返れば、口の端を上げているローと目が合う。
腕でしっかり抱き留められながら、もう片方の手で顎を掴まれて。
ゆっくり近付く唇に、目を閉じた瞬間だった。
ピリリリリーーーー
枕元で鳴る着信音。
唇が触れそうで触れない距離のまま、問いかけた。
「ローじゃない?」
「いや、お前のだよ。…着信ママ=v
私の代わりにディスプレイを読み上げた彼。
朝早くからの着信に一抹の不安がよぎり、急いでスマホを手に取る。
「…おはよう。こんな時間にどうしたの?何かあった?」
『ーーーー何があったじゃないわよ、マナ!昨日ずっと連絡待ってたのよ、お見合い行かないって何!この親不孝娘ッ』
耳を近づけずとも大音量で聞こえるママの声。
私はスマホを離したまま小さく呟いた。
「げ、すっかり忘れてた」
後ろでクスリと笑うローに寄りかかったまま、私は気を取り直してそれを耳に当てる。
「ごめんママ、仕事が超大変で」
『すっかり忘れてたって聞こえたわよ。今』
「ーーーーう、」
地獄耳は相変わらず健在だ。
次の言葉を迷っていると、母親の厳しい声が先に出た。
『仲人さんにも返事しなきゃいけないんだから、納得する理由がなきゃ引き下がれないわよ』
「……実は、彼氏がいるんですが」
彼の膝に囲われたまま、私はゆっくりローに向かって座り直す。
彼の目を見ながら、「彼氏」と言うのは少し恥ずかしかったけれど。
『ーーーー彼氏?あなた今までそんな話、一切なかったじゃない。嘘をつくのはやめなさい』
「嘘じゃないってば」
『…まぁいいわ。所詮彼氏≠ナしょう?恋愛と結婚は別モノなんだから、とりあえず三人と会うって伝えるわね』
絶対イヤ!、と電話口で叫ぶ手前、ローに耳元で囁かれる。
「婚約してるって言え」
「!」
確かにそんな話は昨日したけれど。それは万が一子供が出来たら、という流れではなかったか。
思わず顔を上げると、顎でGOサインを出される。
「えぇと、婚約もしてます。の」
『……』
「……」
私を疑う長い沈黙。
母が黙るのは納得していないか、キレているかどちらかしかない。
『ママ信じないからね。あなたの性格からして、そんなの…』
「お母様、挨拶が遅くなりましてすみません。マナさんとお付き合いさせていただいてます、トラファルガーと申します」
「!?」
私のスマホを手から奪い取って、外用の声で淀みなく話す。
「実はもう一緒に生活もしていまして、ええ…そうなんです。…はは、…ハイ」
何でママと馴染んでるのこの人。
電話が終わったローはベッドに沈みながら、一言。
「日曜、こっち来るってよ」
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