main(long love story)
□double espresso.9
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「あれ、マナーーー」
「あ」
「どしたの、それ」
ガラガラとスーツケースを運んで、ネフェルタリたりホテルの正面入り口に向かえば、見覚えのある3人が目に入る。
「ビビ、コーザ、…コウタ!」
数時間前に会ったビビは、一気に増えたその荷物に驚いて駆け寄る。
「何何何!どうしちゃったのよソレ」
「ちょっとね、」
「ちょっと何よ、まさか彼と…」
言いかけて、背後から近くコーザと元カレコウタの気配に気づき、ビビは口を閉ざす。元カレの前で今カレの話は厳禁である。
「よぉ。マナ」
「…久しぶり、マナ」
コーザに続いて、コウタも声をかけてくれる。
「…ひ、久しぶり…」
婚約を断ってから、1か月ぶりくらいの再会だった。相変わらずコウタは優しい雰囲気のままで、どう顔合わせしていいかわからない私の緊張を悟ったのか、バシッと肩を叩いて笑いかけてくれた。
「何シケた顔してるんだよ?また仕事で揉めたのか」
「まぁ、そんなトコ。3人はどうしてここへ?」
普段通りにしてくれる彼にホッとしながらも、コーザに目線を移せば、
「新郎のスピーチは、こいつにお願いしようと思ってな。まだビビは会ったことがなかったから、今からメシでも食いながら紹介するつもりだった」
「そうだったの…」
私がビビと親友なように、コーザも昔からコウタとは仲が良いから、まぁ当然と言えば当然の流れだといえる。
私が話に納得していると、
「お。マナじゃん」
もう一人私の名前を呼ぶ男性の声。
声のする方を向けば、まだネクタイは閉めないままのキッドだった。時間がまだ早いから、恐らく出勤前。
「キッド。出勤前?」
「ああ、お嬢様も一緒か」
そういうキッドは、コーザを見るなりこないだはどーも、なんてペコリと頭を下げる。
「キッド、いつも言ってるけど従業員入り口は裏だからね。正面はお客様の通る場所!」
ビビが小姑の様に言うのをハイハイと右から左に受け流しつつ、私の荷物に彼の視線が止まる。
「つーかマナ。なんだこの荷物」
「ちょっと、仕事で」
「仕事だァ?前のマンションから越して職場近くなったのに、なんでわざわざ…」
まずい、これ以上言うな。
そう思ったのはビビも同様な様で、
「キッド。あのねっ」
と慌てて彼の正面に立つ。が、一歩遅かった。
「ーーあ。ローと喧嘩して家出か?」
ロー。喧嘩。家出。
今、一番言ってほしくないワードを見事三つ言いのけたキッド。
私が荷物を持ってなかったら、その悪戯っ子のように笑う口を、両手で塞ぎたい位だ。
しかも、何とも情けないことに私の肩はビクリと震えてしまって。誰が見てもこれじゃあ誤魔化せない。
「ーーそうなのか?」
「…っ」
もっとも聞かれたくないコウタにもバッチリ聞かれてしまった様で、あの日以来、真剣な目で覗き込まれる。
「コーザ、ちょっとコウタ君と先に行ってて」
ビビは私とキッドにタックルする様に突っ込んで、正面入口から中に引っ張って行った。
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