main(short love story)

□Before we fall in love
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[マナside,出会いの半年前]


「あれ、もう帰るの?」


ホテルのシャワールームから出て、私がジャケットを羽織った所で、先ほどまでベッドで寝息を立てていた男が眠そうな顔で上半身を持ち上げている。


「うん、明日用事あるし」

「つっても電車ないでしょマナちゃん」

「タクシー拾うから大丈夫よ」


仕事を終えて、ロビンと別れた後に港区のバーでそのまま一杯。

たまたま隣で飲んでいた外資系金融マンと意気投合して、そのまま流れて今に至る。


「ていうか、単刀直入に言うけどさ、俺はこれからも会いたいんだけど」

とりあえず朝まで一緒に寝ようよ、と自分の横のスペースを叩く男に私は苦笑する。


「あなた、そんな子沢山いるでしょう」

高級取りで有名な会社に勤める彼。
話していてユーモアも感じたし、頭の回転の良さも伺えた。
顔もカッコいいし、セックスも上手い。

明らかに女性の扱いに慣れているから、自由に遊んでいるのは分かる。


私が身支度を終えてパンプスを履くと、彼は後ろから声をかける。



「待って、せめて連絡先交換しようよ」

「なに言ってるの。このまま思い出にしておく方が素敵よ」


「…マナちゃん、それ、男が言うセリフ」


「うふふ、おやすみなさい」



またどこかで会えたら、と手を振って部屋を後にする。




ロビンが手がけるブランドの副社長になって、2年目。

今の仕事に就いてからはますます仕事に燃えて、特定の彼氏は作らないようにしている。

今の立場や年収を明かしたら男性は引いてしまうだろうし、忙しいからゆっくりデートを楽しむのもできない。

とびきり恋愛体質な訳でもないし、ビッチな訳でもないけれど、なんとなく人肌恋しい夜もある。

それが3ヶ月に一回くらい、ピークに達して、こんな風に誰かと一夜だけの関係を持つことがある。




(ーーまぁ、スッキリしたから良かったかも。上手だったし、)




酔いも完全に冷めて、乗り込んだタクシーの中から東京タワーを見つめる。


こんな風に一夜だけの関係を持っても、その場しのぎにしかならないことは分かっている。

けれど、

男にしか埋められない隙間は、男に埋めてもらうしかない。


社会人になってからは、過去の彼氏とも仕事の事で別れて来たから、今更、ちゃんとした恋愛なんかしていられない。


というか、したくてもそれを今の環境の元ではーーーー自分のスタンスでは無理なのだ。






向かいの脇道では、手を繋いだカップルが笑顔で歩いている。


(…ちゃんとお互いを分かり合えてるって感じで、いいな)


幸せそうな2人を脇目に、素の自分を受け入れてくれる男とこの先出会えるのだろうか、と途方もない事を考える。


仕事中心の生活に忙しく、土日でさえもオフィスや接待に出向く事もある。

嫌な仕事なら続くはずがないけれど、私は今のファッションの仕事が生き甲斐でもある。


私というアイデンティティから、ファッションはどうしても切り離せそうにない。




自分の仕事人間っぷりに呆れつつも、タブレットで仕事のメール画面を立ち上げた。




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