吸血鬼と海賊少年
□悲しい目
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「 アリスー!どこだー!」
ホールの方から声が聞こえた。
アリスを呼ぶ、男の声。
ビクッ
アリスの体が震えたのを俺は見逃さなかった。
次第に、表情も暗くなっていく。
今まで笑っていたのが嘘だったかのように、
『か、神威。もう、行かないとありがとう。楽しい時間をくれて』
アリスは笑っていた。いや、正確には笑おうとしていた。
ベンチから立ち、俺に背を向けた アリスの手を掴む。
「 アリス?どうしたの?どうしてそんな悲しそうな目をしてるの?」
俺にありがとうと伝えた目は、さっき見た、魚頭の隣にいた時の目。
『悲しそうな目なんて、して、ないよ』
アリスは俺に背を向けたまま、震えた声でいった。
「じゃあ、こっち向いて? アリスが嘘ついてないか見てあげる」
アリスは振り返らず、俯きながら、左右に首を振った。
『嘘なんて、ついてないよ?お願いだから手を放して……』
俺は アリスの腕を引いた。
そして、反動で振り返った アリスを抱きしめた。
今、どうして抱きしめたの?と聞かれたら。
俺はきっと「なんとなく」って答えるだろう。
それくらい、とっさにしてしまった行動だ。
「魚頭の所に行きたくないなら行かなければいいヨ。 アリスは笑った方が可愛い」
正直、こんなことを言っている自分がおかしいと思う。
女なんて、求めなくてもやってきた。
だから、こんなセリフを言ったことも、こうして、抱きしめたこともなかった。
『でもッ………』
「 アリスー!」
アリスが話そうとした瞬間、また、魚頭の声が聞こえた。今度は、そこそこ近い。