moon
□愛おしい恋あり
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『もしもし?やまだ?』
俺の電話なんだから俺以外出るわけねえのに、
いつもいつもだいちゃんの第一声は「やまだ?」なんだ
コール音の次に聞こえる音が
俺を呼ぶ声だって、分かってる、のに、
なんでか今日は無性に
「そうだけど、なに。」
『なにって、お前がさっきかけてきたんだろー!』
「そだっけ。忘れた」
『なに、どした?なんかあった?』
「別に、なんも…」
電話の向こうがやけにうるさい
ように聞こえるのは俺の側が静かだからか
忘れた、なんてたった1分前のこと
忘れるわけねーのに、ばかみたいだ
とっさに声が、聞きたくなったって
バレたくなくて。
着信履歴見て、すぐにかけ直してくれたことが
嬉しかったって知られたくなくて。
『おい、やまだ聞いてる?俺もうすぐ電車乗んだけど…』
「聞いてるよ、どうせ『今日泊めて』だろ?」
『お!なんで分かんだ!?さすがスター』
ばかか、ってだいちゃんを鼻で笑いながら
俺は散らかしてた服やら台本やらをいそいそ片づける
『で、ほんとになんだったの?電話の用件。』
明るい声が耳に届いたけど
「だから別になんもないって。それより____」
それより、早くこっち来てって。
「っそれより、こっち雨降ってるから」
『ぅえ!?まじか!俺傘持ってねー!』
早く、濡れたままでも今日は許すから、早く。