moon

□愛おしい恋あり
1ページ/4ページ



『もしもし?やまだ?』



俺の電話なんだから俺以外出るわけねえのに、

いつもいつもだいちゃんの第一声は「やまだ?」なんだ



コール音の次に聞こえる音が
俺を呼ぶ声だって、分かってる、のに、



なんでか今日は無性に





「そうだけど、なに。」


『なにって、お前がさっきかけてきたんだろー!』


「そだっけ。忘れた」


『なに、どした?なんかあった?』


「別に、なんも…」




電話の向こうがやけにうるさい
ように聞こえるのは俺の側が静かだからか



忘れた、なんてたった1分前のこと
忘れるわけねーのに、ばかみたいだ



とっさに声が、聞きたくなったって
バレたくなくて。



着信履歴見て、すぐにかけ直してくれたことが
嬉しかったって知られたくなくて。




『おい、やまだ聞いてる?俺もうすぐ電車乗んだけど…』


「聞いてるよ、どうせ『今日泊めて』だろ?」


『お!なんで分かんだ!?さすがスター』




ばかか、ってだいちゃんを鼻で笑いながら
俺は散らかしてた服やら台本やらをいそいそ片づける



『で、ほんとになんだったの?電話の用件。』



明るい声が耳に届いたけど



「だから別になんもないって。それより____」



それより、早くこっち来てって。




「っそれより、こっち雨降ってるから」


『ぅえ!?まじか!俺傘持ってねー!』



早く、濡れたままでも今日は許すから、早く。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ