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□君へ。
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『 君へ 』
「ゆーてぃ、」
「ん?」
俺の名前は。
君の声に呼ばれたらすごく柔らかい音になる。
「飲みすぎた。もーいらね」
「もう?半分以上残ってるじゃん」
持ち上げたグラスの中で泡が弾ける。
「いらねーの。」
「はいはい、いらないのね」
むっと口を尖らせてきっ、と俺を睨むけど。顔が赤いせいでただ幼く見える。
「ゆうと、おれ、ふろ」
「だめだって、酒まわる。」
「んんん〜………。」
ふらりと立ち上がろうとする腕を引っ張って座らせ直す。
ぐで〜とそのままカーペットに寝そべった。
「ゆーてぃー、」
「なーにー」
「っふ、ゆうとー」
ふにゃふにゃ笑うのは酔ったときの癖。
目を閉じたまま、唇が弧を描く。
かわいいって口が勝手に言いそうになってびっくりした。
「ねーゆうと、」
「ん?どうした?」
ちょん、と俺の部屋着の裾を引っ張る。とろりとした目が甘く俺を見つめた。
「ん、よいしょ、っと」
それに応えるように、
甘えたモード全開の山ちゃんの隣に俺もごろんと寝そべって。
腕を枕にして抱き寄せてやる。
瞬間、俺の背中にまわる腕。
しばらくそのままの体勢で見つめ合ってたら、ふいに首筋に鼻を寄せられて、チュと小さくキスされた。
俺は唇が離れたと同時に向き合ってた体を反転させて、酔った体を組み敷く。
下から俺を見上げる山ちゃんは相変わらず俺を虚ろに見つめてて。
カーペットから挙げられた指が俺の唇を丁寧になぞって、スッ…と自分の口元に返される。
チロ、と赤い舌がそれを舐めた。
「涼介」
誘われるままに口づける。
「…ん……、ふっ…ぅん、」
ねっとりと絡めた舌。
アルコールのせいでいつもより熱くなった口内を味わう。
水音が混ざりだしてからも
オープンマウスの状態でゆっくりキスを続けた。
もっと溶けて、って思いながら。
「んぅ…ん……ぷぁ、ぅっん、」
「…は、りょう…、っん、」
山ちゃんはキスに夢中になるとすぐ俺の髪をくしゃくしゃする。
お返しに俺も髪を撫でてやったら、唇はつなげたまま微かに笑ったのが分かった。
それからしばらくお互いキスに没頭してたけど、急に俺の髪を弄ってた手から力が抜ける。
ぱたん、と糸が切れたようにカーペットに投げ出された手。
不思議に思って体を少し離したら、
「スー…………。」
幸せそうな顔して眠る顔。
「っはぁー……まじか……。」
ガクリとうなだれてみても当の本人はぐっすり夢の中で。ときどきうにゃうにゃって口が動く。
眠くなるもんね、酔っぱらうと…。
仕方ないから力の抜けた体を抱き起こす。
「ぅ……にゅ。ぅゅ…」
「涼介、それ何語?」
寝言言ってたよってあとで伝えたらきっと覚えてないって言い張るんだろう。
起こさないようにゆっくり立ち上がった瞬間にふわりと香った香水。
キスをして、甘えるようになって。
同じシャンプーを使えるようになっても。
未だ保たれる君の香り。
爽やかなその香りを俺のにおいに染められるのはいつだろう。
こうして今日も甘い病に振り回される。
fin.