orion

□絶対
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「これ、なに?」



氷みたいな涼介の声。

耳が冷たい。





僕のケータイを片手に眉間にしわを寄せるその顔はまるでトランプのジョーカーみたいで。


泣いてるのか笑ってるのか分からないような顔。





「りょう、すけ…?」

「なぁ、これ。なんだよ。どういう意味?」

「だから…なに、が…?」




怖いと思ってることを分からせたくなくておどけて見せるけど、涼介は全然見てくれない。




「『先にホテル着いた』」

「……っ…」

「誰コレ。」

「ま、マネージャーさん」

「メルアド違うだろ。」




捨てるみたいに僕のスマホを投げたからびっくりして慌ててキャッチした。


液晶には確かにメールの受信フォルダが開かれてる。





「『バレなかった?』って聞かれてんじゃん。これは?これもマネージャー?」

「……ぅん、」

「へぇ。面白い会話してんだな。じゃあこれは?」



涼介が反対側からタップして現れた画面には、




『次はいつ会えんの?』







「………っ、」

「マネージャーなら知ってるよな、聞くわけないし。っつかそもそもタメ口きかねぇよな。」





なに

なんて言うんだっけ、こういうとき。




僕にじりじりと詰め寄ってくる涼介から思わず後ずさりしてたら、トン、と背中に固い感触。



もう逃げ場がない。






「侑李さぁ…。」

「……っ?」

「_____お前、浮気してんだろ。」

「……ッッ」





ボソッと呟かれた言葉に声が出なかった。



ぐらぐら空気ごと揺れるような沈黙の後、口を開いたのは涼介だった。




「お前、そういうことしていいと思ってんの?」

「ち、が…「違わねぇだろーが!」



ビクッ



聞いたことない涼介の怒鳴り声。
ガタガタと体の震えが止まらない。




「俺、浮気はありえないって言ったよ、侑李」

「…っ…ぅ、」

「この前のインタビューでもあったじゃん、『浮気を許せますか?』って」

「………っ…、」

「なぁ、返事。しろよ」

「、…っぅん、」

「で、俺なんて答えたか覚えてるよな?」

「っめ…メンバーでも…だ、だめって…。」

「そう。覚えてんじゃん。」

「……っ、」

「じゃあなんでやってんだよこんなこと。」





問い詰める涼介の顔を見れないでいたら顎をぐっと掴まれて上を向かされた。



食い込む指が痛くてじわりと涙が浮かぶ。





「っごめ、なさ…っ」

「謝ってほしいんじゃねーの、なんでって聞いてんの。」

「〜〜っ…ぃ、た…っいたい、!」

「答えろよ、侑李。俺と別れたいの?」




聞かれてぶんぶんと首を振った。ちがう、ちがう、そうじゃない、




「りょ…すけ、に、やきもち…やぃ、て…ほしくて…、」

「へぇーーー。」

「でも…っごめ……っ、ちょっと会うだけ、のつもりで、ほんとに、」

「で、いざ会ったらいいようにおもちゃにされておいしく食べられましたって?」

「〜〜っ…!」

「なんだよ、そうだろ。この体、他に触らせたくせに」




顎を掴むほうの手とは反対の手がTシャツの裾から入り込んできて、するするとたくしあげていく。


冷たい空気に直接触れて、鳥肌が立つ。




つー…と胸からへそに涼介の指が滑る。くすぐったくてひくりと震えちゃう僕の体。




「なに感じてんの?」

「ち、がぅ…ッ」

「違わねーよ、嘘吐くな」

「……っっ…涼介…。こわぃ、よ、」

「誰のせいだっつの(笑)」




あはは、と笑う声に少しも感情を感じなくてますます怖くなる。こんな涼介見たことない。怖い、このひとだれ…?





「で、分かってるよな?」

「………っぇ、…?」

「いくら馬鹿でもこれからどうなるかぐらいは分かるよな。」

「へ…っ、ぁ、りょ…うあッ…!!!」






突き飛ばされた先のベッドがギシッと悲鳴を上げた。





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