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□28と53
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Q.28おまけ
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その日は初めて将暉とドライブをした日。初めて将暉の車に乗せてもらった日でもある。
そしてもう二度と乗らないと思った日でもあるんだ。なぜって____
×××
「涼介、お疲れ。」
「ほんとにいいの?」
「うん。なんで?帰りたい?」
「いや…運転とか疲れない?」
「大丈夫やで?俺割と好きやねん、運転」
迎えに行く、とメールが届いたのが数分前。
地下の駐車場に降りたら、車にもたれかかるようにして将暉が待っていた。
伏し目がちにスマホを触る姿が見えた瞬間、どくんっと胸が鳴って、体に鳥肌が立った気がした。
「将暉って車すき?」
「うん。なんで?」
「ううん。知らなかったから」
そう言ったらふふ、と恥ずかしそうに笑って助手席のドアを開けてくれた。
乗り込んだ車内は将暉のにおいがして、たまらなくなる。
どうしていいか迷ったあげく、持っていた鞄を膝の上で抱きしめた。
「ぅし…。あ、ちょっと待って、」
将暉も運転席に乗り込んでハンドルを握ったけど、ふいに俺のほうを見て。
トンっ、と俺のすぐ横の窓に手を付いたと思ったら急に覆いかぶさってきて視界いっぱいに将暉の顔。
「ぇ…!?ぁ、な…っ」
キス!?と身構えて思わず目を瞑ったら
カチャッ
「…えっ?」
軽快な音を立てて何かがはまる音。
見れば俺の体はシートベルトで固定されていた。
あ。忘れてた…。
なぜか安心しちゃってほっと息をついたら将暉が「ん?どうした?」って聞いてきて、慌ててなんでもないフリ。
キスされるかと思った、とは言えない…。
「涼介、」
「ん?……っ!」
ちゅっ
名前を呼ばれて顔を向けたら、唇が重なった。
触れるだけのキスだけど、それだけでもう十分なぐらい。
久しぶりの甘い感触に頭が考えることをやめてしまう。
「−……っ…//」
しばらくして静かに離れた唇。
超至近距離で見つめ合って、1ミリも動けなかった。
「キス。されるか思たやろ」
「〜っ!//き、づい、」
「うん。涼介ほんまかわいいな」
もう、なんでそういうことさらっと言うんだろ。言われる側の身にもなってほしい。
心臓がさっきからもううるさいんだよ、静かにしろよ。
未だにドキドキしてるなんて知られたくなくて、シートベルトをぎゅっと握った。
「よし、行くか!」
なにかを吹っ切るような将暉の声。
走り出した車が風を切って街へと飛び出した。