orion

□片恋
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マグカップを包み込む袖から少し覗いた指。


醸し出す雰囲気が柔らかでカメラに映し出すそれとはまったく違う色をしていた。





「で、涼介は最近どうなの?」

「あぁそうだよ。」



僕の質問に向かい側の席に座った圭人も少し身を乗り出した。



形も色もばらばらなのになぜか統一感があると言って気に入ってるカフェ。

店内には静かにピアノの曲が流れてる。寒さを少し残した春の風が窓の外の木を揺らしていた。



「どうって…なにが?」



唇を小さく動かしてしゃべる涼介。本当はなんのことか分かってるのに最初はいつもとぼけてみせる。




「もーとぼけちゃって」

「ふ、(笑)」



そう言ったら困ったように笑った。

まるで行き場のない気持ちの捨て場所を探すみたいに。




「あ、その様子だといいことあったの?」

「んー…べつにたいしたことじゃないんだけど…」

「なになに。」

「こないだ…服、見に行った」

「一緒に?2人で?」

「…ん。」

「よかったじゃん!」

「山ちゃんから誘ったの?」

「いや…行かない?って、言われて」

「裕翔から!?よかったねぇ。」




ふふ、と綻ぶように笑った涼介を見て、圭人も嬉しそうな顔をする。



くるくるとカップの中のミルクティーをかき混ぜる横顔は、恋をしていた。














『俺、さ……好きな人…できた。』




そう僕たちに打ち明けてくれたのもこのカフェだった。



僕も圭人も、どんな子なのか一気に知りたくなって、質問攻めにした。

それがどんな子でも涼介に惚れられたらきっとイチコロだろう、なんて言いながら。




でも、切ない顔をして告げたその名前は僕たちの家族ともいえる人の一人だった。







『………裕翔が…好きなんだ、俺』


















「連絡は?今してないの?」

「うん…送っては、いるんだけど」

「返事は?」

「んー……ぼちぼち、かな」

「…そっか。きっと忙しいんだよゆうてぃも」

「うん。映画の撮影も始まったみたいだし」








慰めるように言う僕らに涼介はふんわりと笑って一口カップを啜った。








....








涼介はああ見えて人見知りな性格だ。事務所の中でもいわゆる王子様キャラを担うほうの人だけど、中身はとっても柔らかくておっとりしてて。





テレビや雑誌の取材で答える恋愛観はもちろん嘘じゃない。




でも、本当の涼介は全然違うって知ってるのは今のところ僕と圭人ぐらいかも。





送信するメッセージをあれでもないこれでもないと何分も悩んだり。

会えるはずの日の服装に悩んだり。

いつ来るか分からない返信を待って何度もスマホを気にしたり。





「涼介、今幸せ?」

「んだよ…急に…//」

「いいからっ。幸せ?」




問いかけたら、少し戸惑ったように口を開いた。






「……しあわせ…かな、」




なぜって、









全ては、恋をしてるから。




他でもない、ゆうてぃに。








.

つづく
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