orion

□やまあり恋愛短編集T
1ページ/1ページ





【盲目の華には棘がある/ありやま】








「なぁーあーやーまーだーー」



お揃いの白いジャージに身を包む山田に手を伸ばした。

けど手が返されることはなくて、代わりに「うざい!」の一言。




「なんだよーもうちょい構えよ!」

「うるっさいんだよお前は!あっち行ってろ!」

「…はぁ…なんだよ…」




がく、と肩を落とす俺がモニターに映って、メンバーが声をあげて笑う。





「ははっ山田冷てー(笑)」

「大ちゃんだめだめじゃん(笑)」

「涼介すごい真剣だねー」





俺も笑いながらなにげなく山田を見たら、山田は少し心配そうな顔をしてる。


まるで「怒ってる?」って聞くみたいに。



「………。」



俺は迷ったあげく、一瞬山田の目を見てあからさまに目線を外してみた。


山田はすっと息を飲んで、しばらく俺を見てたけどすぐにモニターに意識を戻した。



本当なら、今はみんなに聞こえないように「だいじょうぶだよ」とか言うところだった。

目の前のカメラは俺たちがいるのとは反対側の方に向いてたし、絶対出来なかった訳じゃない。





それも分かってたんだけどなんとなく、ちょっとだけ山田にいじわるしたくなった。


あとで「なんで?」って聞かれたら「カメラに映ると思った」って言えばいい。なんて狡い考えも確かにある。




家に帰ってからな、山田。


そう、心の中で呟いて俺もモニターに意識を戻した。






________________
_________

____








「……なぁ、だいき…?」



あ、きた。
俺はつい嬉しくて笑ってしまいそうになるのを奥歯を噛んでなんとかこらえた。

ONの山田涼介とは全然違う、少し不安げな鼻にかかった声が呟くように二人っきりの部屋に落ちる。




今日の晩飯の食材で重くなったスーパーのビニール袋をテーブルに置きながら俺はわざと冷たい声を出した。



「ん?」

「ぁの、さ…」

「なんだよ、」




がさっと荒い手つきでビニールの中から缶のコーラを出してその場でプルタブを押し上げた。


冷たい金属の端に唇を付けたらしゅわりと弾ける泡。



半分ほど飲んだくらいで、微かにTシャツの裾が引っ張られる感触。

見れば山田の指がきゅ、とそこを掴んでいた。





「だいき、…」



寂しそうなその声にたまらなくなっちゃう。やりすぎたかな、ってちょっと反省。




「どーした?」


俺は意識して柔らかい声を出した。




「今日、さ…」

「うん。」

「今日、おこ、ってない…?」




不安げに揺れる瞳が俺を映して、体の奥からぐわっと愛おしさがこみ上げてきて。

その気持ちのまま、シャツの裾を握る手を引き寄せて力いっぱい抱きしめた。




「……っ、」

「ごめん。いじわるしちゃった」




驚いたのか強張った体からゆっくり力が抜けて、ゆるゆると背中に腕がまわされる。


ひどく安心したように「はぁ……。」と大きく吐き出された息。

首筋に顔を埋めるから少し髪が当たってくすぐったい。




「大貴、」

「怒ってねぇよ、あんなので怒るわけないじゃん(笑)」

「そ、か…。よかった。ごめん……なんか、スタジオのとき、目そらされたのかと思っちゃって…」



ごめん、あれはわざと。

山田にこんな風に甘えてほしくて、とは言えない。




「まじで?ごめん、全然覚えてない…」

「んーん、もういい…怒ってなかったんなら、全然……」




山田は体重を預けて俺の腕の中で目を閉じてる。



「何回も言うけど…ああいう態度はテレビだからやってんだからな?勘違いしないでよ、?」

「分かってるって。カメラなかったらこうやって甘えてくれてるじゃん」

「そだけど…。なんか大貴が分かってくれてないと、やだ。」



なんだこのかわいいいきものは。
俺なんかとっくに虜なのに。


かわいいかわいい、と撫でまわしたくなる手をなんとかこらえてかろうじて髪を撫でてやるだけにとどまった。


そしたら俺の服に顔を埋めたままくぐもった声が聞こえて。






「だいき、もうちょっと…」

「ん…?」

「もうちょい、このまま…だっこしてて?」

「ー、いいよ。いつまででも」

「うん……」


努めてなんでもないことのように返事をした。つもり。


だけど心の中ではもうそこらじゅう跳ねまわれるぐらい嬉しくて、かわいくて。


どうにかなっちゃいそうで、少し気をゆるめたら誘惑に負けそう。さっきからもうキスとかしたくて触れたくてたまらない。



あー!
ってかキスだけで終われんのか俺!?

絶対終われねえよ、終われたことあんのかよ、ねえよ。


今日考えなきゃいけない歌詞とか、あるのに。明日も朝結構早いのに。



このままベッド直行したら山田嫌がるかな…。

でも行っちゃったら絶対今日仕事しないしな…。






「な、大貴。俺のこと、すき?」

「……(あーどうしよ…)」

「なぁ、だいき??」

「(明日の朝やりゃいっか…。あーでも寝起きの山田も捨てがたい…)」

「なぁー大貴ってば。きいてる?」





「だいき、だいき」と俺の名前を呼ぶ声を聞きながら、なんとか仕事をずらせないかと必死に考えた。






fin.

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ