orion

□岩にしみいる蝉の声
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深い紅のスウェード調のソファが汗を吸う。

銀の髪がべたべたと額に張り付いて離れない。自由になった手で乱暴に前髪を払う。


しかしすぐにその手も掴まれてソファに縫い付けられた。にたにたと気色の悪い笑みを浮かべる相棒を見て、蝉は「チッ」と舌打ちをした。


蝉の左手の甲に刻まれたクロスの刺青が岩西の手の中で窮屈そうに歪む。


「っ…はぁ…なぁ蝉、そろそろか?」

「ぁ…っ…なにが、だよ…」


おそらく岩西はそろそろ限界かと尋ねたんだと、蝉にも分かっていたがすぐに認めるのは意地が許さない。こいつとするセックスはいつも賭け事のようで、勝負だと思っていたからだ。


頑なに認めようとしない蝉を岩西はなぜか愛おしいものを見るような目で見下ろして一瞬腰の動きを止めた。



「……ぁあ…、は…っ」


途端、こぼれるように声が出て息も一緒に吐き出す。


絡めた脚から力を抜いてだらんとソファに下す。ふと見たテーブルの上にはウォッカのボトルが照明を反射していた。

微かにジャズの音も聞こえる。レコードが部屋の奥でまわってるんだろう。歌手は聞かなくたって分かる。どうせジャックなんとかだ。こいつはそれしか聞かない。



「っは…蝉、お前少し痩せたか?」

「うるせぇな…お前が搾取してるからだろ…」

「…食べてねぇのか?」


心配そうな声色になった岩西を見て、蝉は一瞬どう返事するか迷った。サクシュ、などという言葉を使って岩西を脅すのは日常的なことなのに、返ってきた返事はいつものものと違ったからだ。



「…嘘だろ。ちゃんと食うもん食ってるっつの」


言ってすぐにふいっと目をそらした。未だに中に突き立てられたままの熱が信じられない程熱い。



「蝉…お前、」

「んだよさっきから…さっさと、」

「お前、綺麗になったな。」

「…っ、」



なんなんだいったい。おちょくってんのか、と怒鳴り散らしたいが今はその元気もない。



「綺麗とかそういうのは女に言えよ…、俺はてめぇのおもちゃじゃねぇっつの」

「ホントにそう思ったんだからいいだろ。滅多にないぜ?俺は正直者なんだ」

「どうでもいいけどよ…さっさと動けよ。何時間突っ込んでりゃ気が済むんだ」

「うるせぇなぁお前は。ホント蝉みたいだ」



蝉だからな、と心の中でぼやいたらそれを合図にしたかのように律動が再開する。猛った性器が押し込まれて蝉の白い背ががくんとソファから浮いた。



「…っっあ…!っ…ぃ、あ…ッ」

「蝉…ッ…っく、は…っ」


耳元で吐き出された息が熱い。肌蹴られたシャツからのぞく胸元には大粒の汗が浮かんでいた。ソファに押さえつける岩西の手を無理矢理振り解いて上下に揺れる体を掻き抱く。


中の弱いところばかり執拗に責めたてられてすぐそこに絶頂が迫る。揺さぶられる度、ひとり極まってやるものかと、きつく背に爪を立てた。岩西はく…っ、と息を飲んで顔を歪めたが、腰の動きは止めないまま。ラストスパートとばかりに蝉の奥へと突き込んだ。



「ぁ、アッ…ぐ、ぅ…ン…ッ!!!」

「うぁ…ッ〜〜…!」


ビュルルッと飛び出した精液が蝉の白い胸元をひどく汚した。中の吐き出された岩西の熱がごぽりと泡になる。声を噛み殺すようにしてイったせいか、じわりと血の味が口に広がった。



「ぁ…あぁ…は……っ」


ぜえぜえと息をしていたら岩西の体がふいに傾いだ。身構える隙間もなく、気付けば唇が重なっていた。切った部分を吸われてじんとした痛みがそこから広がる。


つぷ、と離れた唇をぺろりと赤い舌が濡らす。



「んっ…っ…、は…」

「はぁ……、蝉…」

「っ、やめろ…きめぇ。さっさと抜け」

「どうしてそう、偉そうなことが言えるのかねぇ」


呆れた顔をしながら腰をひいて蝉の中から性器を引き抜く。反射的に後孔が切なく収縮するのを感じて蝉は顔を顰めた。



「なんだ、寂しいのか?なんならもう一戦するか」

「……殺すぞ、お前」

「ははっ。人殺しが口にすると洒落にならねぇな」




毒づく蝉を見て岩西がけたけたと笑う。


テーブルの上の袋に入れられたしじみが水中でぷかっとひとつ、息をした。







fin.

→あとがき
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